日曜日。


拳は1人町中をぶらぶらしていた。


本当は晶を誘って映画でも観るつもりだったが


「そろそろ試験近いから勉強するの。」


あっさり断られてしまった。


いや今回に限ったことではない。


以前はなんやかんや言いながら結構付き合ってくれていたが、最近は練習以外ではほとんど接点がなくなった。


すべては静也の存在のせいだろう。


最近になって急に2人の距離が縮まったようだ。


拳にすれば面白くない話である。


そんなことを考えながらアテもなく歩いていると道端で同じ学校の生徒らしき3人が誰かに絡んでいるのが見えた。


近づいてみると絡まれていたのは静也だった。


なぜか両手にスーパーの袋を大量に持ち、足元には袋からこぼれた玉ねぎやら人参やらが転がっていた。


「こんだけ買い物するねんやったら金あんねんやろ、ちょっと貸してくれよ。」


「いやいや、俺が個人的に使えるお金じゃないから。」


「そんな都合知るか!とにかく出せや!」


1人が両手のふさがっている静也のポケットに手を伸ばそうとしたのを拳が押さえた。


「何するんじゃ!」


押さえられた1人が怒って拳のほうを見たが、その瞬間顔が青ざめた。


「し、神明!」


拳の暴れん坊ぶりも有名である。


「こいつ俺の知り合いやけど何か用か?」


拳が威嚇するような眼で3人を睨むと


「いや別にそういうわけやないけど。」


3人は怯えたようにそそくさと去っていった。


静也は意外な展開にキョトンとしていたが


「ありがとう!」


とりあえず拳に礼を言った。


拳は面白くなさそうな表情で


「別にお前のこと助ける義理はないけど、後で晶に知れたら何言われるかわからへんからな。」


「それでも助かったよ、このお金取られたら今月の残り困るとこやったし。」


「お前は主婦か!」


拳は静也の大げさな言葉をからかうつもりだったが


「うん、そんなようなもんかな?うち父親と2人だけやから。」


静也の答えにアッと思った。


「わ、悪かった、知らんかったから。」


しゃがんで落ちた野菜を拾っている静也に謝った。


「あっ、別に気にしてないからええよ。」


静也は気さくに笑ってくれたが、拳は気が済まないのかいっしょに落ちている野菜を拾った。