少年は必死だった。
何とか捕まえようとするのだが、とにかくスピードが速いので距離を詰めるだけで一苦労である。
それでもこのままだとまた今回も勝つことができない。
少年は一か八かおもいきって突っ込んだ。
ワンツーからローキックを放つ。
相手はそんな少年の行動を読んでいたのか、ワンツーにカウンターを合わせた。
少年の頭が後方に弾け、一瞬クラッとする。
その隙を相手は逃さない。
猛然とラッシュをかけてくる。
少年はクリンチで逃れようと組みついたが、次の瞬間投げ飛ばされアームロックを決められた。
パンパン!
少年はたまらず床を叩いた。
「晶、投げ技も関節技も反則やぞ!」
少年の抗議に晶はアームロックを解きながら
「そんなこと言うんやったら自分も覚えたらええやん!」
「アホか!空手家は立って戦うもんじゃ、投げ技も関節技もいらん!」
「あっそ、じゃあ文句いいな!」
「うるさい、いつか立ち技だけでお前のこと倒したるからな!」
「はい、はい。」
晶は毎度おなじみのやり取りに少々呆れていた。
少年の名は神明 拳(シンメイ ケン)。
晶が通う神明流空手の跡取り息子である。
そのプライドからか決して空手以外の格闘技は認めない頑固者であった。
いつも空手の技だけで晶に挑むのだが、さまざまな技を駆使する晶におくれをとっていた。
だが他流派のジュニア大会では優勝するほどの腕前である。
晶と同じ中2で幼稚園のときはいっしょだったが、校区の関係で小学校、中学校は別になった。
自称晶の彼氏であるが晶は認めていない。