家を出た瞳は大阪の堺市に辿り着いた。


とくに当てがあったわけではない。


偶然見つけたキャバクラの広告が寮完備で条件がよかったので応募したのだ。


瞳は即採用された。


働き出してまもなく瞳は店のNo1になった。


容姿端麗、スタイル抜群で客あしらいもうまければ当然といえば当然であるが。


そんな瞳を店側も大事にした。


以前のように体をさわられることもない。


瞳は初めて水商売をして楽しいと感じた。


そのまま3年の歳月が流れた。


21歳の瞳は変わらず店のNo1であり続け、充実した日々を送っていた。


ただ男運には恵まれなかった。


3年間の間、何人かの男と付き合ったが長続きはしなかった。


皆遊びであった。


最後の男は


「水商売の女と真剣に付き合えるか!」


捨て台詞を残し瞳の前から姿を消した。


だが不思議と腹は立たなかった。


それは瞳もどこかで男を信用していないせいかもしれない。


とにかくもう男はこりごりという思いだけが残った。


そんなある日、瞳は常連である町工場の社長についた。


今日は接待のようである。


瞳は主賓の隣に座った。


まだ若く20代半ばのように見えた。


周囲の態度を見れば、どこか大会社の御曹司といったところか。


「いらっしゃいませ。」


瞳がにこやかに微笑みかけるとその若い男は


「どうも。」


やや照れくさそうに頭をかいた。


それが2人の出会いであった。


男の名前は最上(もがみ)健二、26歳。


最上重工という大会社の時期社長である。


今回は下請け会社の接待でこの店を訪れたのだ。


健二は瞳に一目惚れしたらしく、その日から毎日店に通い続けた。


来るたびにさまざまな手土産を持って。


最初は迷惑がっていた瞳であるが、健二の熱意に負け付き合うようになった。


しかし心は開いていなかった。


今は誠意を見せてくれているが、いずれ健二も自分の前から去っていくだろうと瞳は思っていた。


だが付き合いだして半年が経っても健二の態度は変わらなかった。


それでもまだ瞳は健二を信じることができなかった。


ときどき悲しそうな目で健二を見た。


健二はそんなとき瞳をやさしく抱きしめた。


理由は一切聞かない。


そのたびに瞳は揺れ動いた。


勇気を出して信じたい心と裏切られるのを恐れる臆病な心の間で。