瞳はもともと和歌山県の出身である。
物心ついたときすでに父親はなく、母1人子1人の環境で育った。
瞳の母もホステスで瞳が小学校にあがる頃、念願の自分の店をオープンさせた。
開店当初はバブル景気に乗り経営は順調であったが、バブルがはじけると途端に経営難に陥った。
瞳の母は何人かの客と深い仲になることで資金を得、何とか店を維持した。
しかしそれも長くは続かない。
瞳が中学にあがる頃には店は火の車であった。
瞳の母は悩んだあげく瞳を店で働かせることにした。
早熟だった瞳は化粧をすればとても中学生とは思えないほどの色香を漂わせた。
店には瞳目当ての客が殺到した。
瞳自身も生きていくためには仕方がないとあきらめていたが、どうにもがまんできないことがあった。
酔っ払った客が体をさわってくるのだ。
いくら早熟とはいえ中学生の瞳には耐えられない行為である。
それでも瞳の母は彼女に耐えるよう言い聞かせた。
これしか生きていく方法がないと。
瞳は泣く泣く耐えるしかなかった。
そして皮肉にも瞳は成長するごとに美しく、またスタイルも良くなっていった。
そんな美しく成長した瞳を周囲の男たちが放っておくはずはなく、大金を出してでも瞳のことをモノにしたいという人間まで現れた。
これにはさすがの瞳の母も首を縦には振らなかった。
だが瞳の母が拒否すればするほど金額はうなぎのぼりに上がっていった。
ついにはたった一晩で年収を軽く上回る金額を提示され瞳の母は了承してしまった。
瞳は拒否したが母に
「たった1度だけ。」
そう泣きつかれ承諾せざるを得なかった。
しかし1度ではすまなかった。
1度タガが外れてしまった瞳の母に罪悪感はなかった。
大金さえ積まれれば平気で娘を売り渡した。
瞳はそんな母に絶望したが、助けてくれる親族も知人もいなかった。
彼女は言われるまま男たちの間を渡り歩いた。
瞳の母は大金が手に入ると店をたたみ、若い男をはべらして遊び歩くようになった。
それでも瞳はひたすら耐え続けた。
瞳は高校を卒業すると母の目を盗み貯めていた金を持って家出の準備をした。
精神的にもう限界であった。
それに充分母には尽くしたつもりだった。
贅沢さえしなければやっていけるだけの金は残っているはずである。
あとは自分がいなくなることで、元の母に戻ってくれることを祈るばかりであった。
そんなことを考えながら生まれ育った家を眺めていると涙があふれてきた。
瞳は涙を拭うと
「さよなら、お母さん。」
小さな声でつぶやきゆっくり歩き出した。
彼女は2度と振り返ることはなかった。