午後から試合が再開され、悟たちは順調に勝ち上がっていった。


そしていよいよ準決勝を迎えた。


悟と隆俊が戦うことになったのだ。


さすがにもう気楽に話したりはしない。


普段は兄弟以上に親しくしていても、今は倒すか倒されるかの敵同士である。


悟は1人客席に座って集中していた。


その様子を見ていたゆかりは


「行って声かけてくれば?」


瞳の肩を叩いた。


「いや、でも・・・・・・・」


瞳は躊躇した。


「もう、まどろっこしいわね。」


ゆかりは瞳の手を引き、悟のそばまで行くと


「ほら!」


彼女の背中を押した。


だが勢いがつきすぎ、危うく悟にぶつかりそうになった。


「もう!」


瞳はゆかりを睨みつけようとしたが、すでに背中を向けていた。


「だいじょうぶですか?」


逆に悟に心配されてしまった。


「ご、ごめん、集中してるときに。」


瞳は思わず謝った。


「ぜんぜん、うれしいですよ。」


悟はそう言って笑ったつもりだが笑顔はぎこちなかった。


それだけ緊張しているのだろう。


そういえば体も小刻みに震えている。


瞳は無意識に悟の手を握っていた。


「あっ!」


悟は一瞬、驚いた。


何度も会っているが、手を握ったのは最初の夜以来だったからである。


瞳も自分の行動に驚いていた。


しかし手を離すことはなかった。


悟の震えが収まったからだ。


そのまま2人は無言で手を握り合っていた。


ゼッケン番号と名前が呼ばれ


「行ってきます。」


悟はゆっくり立ち上がった。


「うん、がんばってね。」


瞳は悟を見上げた。


手は握ったままで。


「じゃあ。」


悟はゆっくり手を離し、それからリングに向かった。


その背中はたくましくいつもの弟の雰囲気ではなかった。


初めて会ったときのあの父親のような大きさを感じていたのだった。