悟が自己紹介を終えたとき、ちょうどカレーとサラダが運ばれてきた。


瞳は食べながら悟に質問を続けた。


「悟くんは何かクラブはやってるの?」


「クラブはやってませんが、町の空手道場に通ってます。」


「ふ~ん、それで強いんだ。」


瞳は感心したように言った。


「いえ、そんなたいしたことはないです。」


悟は謙遜していたが、ちょっと誇らしげである。


それだけ空手が好きなのだろう。


瞳がそんなことを考えている間に悟は食べ終えていた。


食べ終えた悟は瞳の顔をしげしげと眺めていた。


「何?何かついてる?」


視線に気づいた瞳が悟を見た。


「あ、いえ、その、あらためて見るとメチャメチャ美人だな~って。」


そう答えた悟の顔は再び赤くなっていた。


瞳はおかしくなり


「もう1皿、カレーが食べたいの?」


からかうように言った。


「そんなんじゃありません、ほんとにそう思ったんです。」


ムキになって答える悟の姿に瞳は笑いながら


「じゃあ素直に受け取っておきます、ありがとう。」


「ど、どうも。」


素直に答えられてもドギマギする悟であった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「今日はごちそうさまでした。」


悟が瞳のマンションの前で直立不動でお辞儀をした。


アドレスを交換してみてわかったが、やはり悟の家は近所である。


「いえ、あれぐらいじゃ、お礼にもならないわ。」


「そんなことないです、あれで充分ですから。」


悟はそう言った後、しばらく考えていたが


「あの、その、お礼とかじゃないんですが・・・・・・・・・・・」


「何?」


「そ、その、また会ってもらえますか?」


「ええ、もちろんいいわよ。」


瞳はあっさり答えた。


「ほ、ほんとですか?」


悟は飛び上がらんばかりの勢いだった。


「じゃあ、テストが終わったら連絡してね。」


「はい、わかりました。」


悟はそう答えると手を振りながら歩き去った。


瞳はマンションに入ると自分の気持ちが不思議だった。


普段、男が自分に気のある素振りを見せると必ず適当にあしらった。


水商売をしていて、いちいち全ての男を本気で相手にしていられないからだ。


だが悟はちがっていた。


悟が自分に気を持っているのは今日の態度でわかりすぎるほどわかっていたが、まったく警戒する気にはならなかった。


多分、弟のような感覚で見ているのだろう。


悟にしても単に年上に憧れているだけなのだ。


瞳はそんなふうに軽く考えていた。