瞳は駅から少し離れた静かなカフェに彼を案内した。


「へぇ~こんなお店があったんですね。」


彼はめずらしそうに店内を見回していた。


「ところでお昼は?」


時間も時間なので瞳は尋ねてみた。


「まだ食べてません。」


彼は躊躇なく答えた。


どうやらお腹がすいているようだ。


瞳はニッコリ笑うと


「じゃあ食べましょう、お礼と言ったらなんだけどご馳走するわ。」


「えっ、そんな悪いですよ。」


彼は遠慮したが瞳は気にせず


「カレーは嫌い?」


「いえ、大好きです。」


「じゃあここのカレーすごく美味しいのよ。」


そう言ってカレーセットを2つ注文した。


瞳はそのあと彼のほうに向き直ると


「この前は本当にありがとう。」


「あなたがいなかったら、私どうなっていたか。」


座ったまま頭を下げた。


「いえ、そんな当然のことをしたまでです。」


彼は照れくさそうに頭をかいた。


瞳はそこで言いよどんでいたが


「その・・・・・・・・その後も迷惑かけたし・・・・・・・・・」


おもいきって謝った。


「あんな目にあったら怖くなって当然ですから。」


「それより名前教えてもらえませんか?」


彼もそれ以上、その話題には触れないほうがいいと察したようだ。


瞳はいきなり名前を聞かれ戸惑ったが


「井口瞳です、26歳、キタのクラブでホステスしてます。」


「ええっー!」


年齢と職業まで包み隠さず話した瞳の自己紹介に彼は大仰に驚いた。


「そんなにおかしい?」


「いえ、別にそういうわけじゃないんですが・・・・・・・」


彼はしどろもどろになりながら答えた。


「じゃあどういうわけ?」


瞳はちょっといじわるしてやった。


彼は真っ赤になって頭をかいていたが


「えっと・・・・・20歳ぐらいだと思ってたんで。」


「その・・・・・・すいません。」


ペコリと頭を下げた。


瞳はクスッと笑うと


「別に謝らなくていいのよ、若く見られたほうが私もうれしいし。」


「ホントですか?」


瞳が気を悪くしていないことがわかると途端に彼の顔は明るくなった。


そんな彼の子供っぽい態度を瞳は微笑ましく思った。


「ところで今度はあなたのこと教えてもらえる?」


「はい、霧島悟16歳です、今度高校2年になる予定です。」


悟はよく通る声ではっきりと自己紹介した。