声の主は彼女の体の上に乗っかっている男をどけた。


男は不意の一撃を後頭部に受け、白目をむいて悶絶していた。


助けてくれた男性は瞳の上着のボタンをとめ


「だいじょうぶですか?」


もう1度同じ言葉を繰り返して彼女を起こした。


そこで瞳はようやく助かったことを実感した。


その途端、気が緩んだのか感情が抑えきれずわんわんと声をあげて泣き出してしまった。


これには助けた男性も焦った。


「だ、だいじょうぶですから。」


「もう怖いことはありませんから。」


「安心してください。」


必死で瞳をなだめていたが、彼女はいっこうに泣きやまなかった。


困り果てた男性は


「とにかくお家までお送りしますから。」


そう言って瞳を立ち上がらせた。


しかし感情を爆発させ、わんわん泣いている瞳はまっすぐ立つこともおぼつかなかった。


男性は仕方なしに瞳をおんぶした。


瞳は背負われると少し安心したのか泣くのがおさまった。


それでも背中から顔をあげようとはしなかった。


男性はその状態で何とか瞳からマンションの位置を聞き出し前まで連れて行った。


「着きましたよ、ここでいいんですよね。」


男性は背中の瞳に声をかけた。


瞳はチラッとマンションを確認すると


「部屋まで連れて行って。」


ボソッとつぶやいた。


男性は困っていたが、まさかそのまま放り出すわけにもいかず瞳を背負ったままマンションに入って行った。


瞳の部屋に入ると男性は彼女をベッドの上に降ろした。


「ちょっと待ってて。」


瞳はそう言って男性を待たせたままバスルームに入って行った。


彼女は破れた衣服を脱ぎ、シャワーを浴びた。


瞳がバスルームから出てくると男性は言われたようにベッドの脇で待っていた。


「もうだいじょうぶですか?」


シャワーを浴び、だいぶ落ち着きを取り戻した感じの瞳を見て男性は尋ねた。


だが瞳は


「もうちょっといっしょにいてくれませんか?」


男性に願い出た。


時間は深夜1時を回っている。


それでも男性は


「わかりました、いいですよ。」


さわやかな笑顔を見せた。