和樹はその後、大学を辞め正式に鉄二に弟子入りした。
そして今まで以上に料理修行に励んだ。
鉄二も自分の持てるものは全て和樹に託した。
三年後。
一通りの料理を作れるようになった和樹は茜にプロポーズした。
茜は二つ返事でOKした。
たとえ従姉弟とはいえ、2人が結ばれるのは必然であった。
結婚式は質素な物だった。
披露宴も武夫妻と同じく真田亭で行なわれた。
料理を作るのも和樹1人で行なった。
「それにしてもこんなとこで披露宴せんでもええのに。」
正志がつぶやいた。
「こんなとこで悪かったな、気に入らんかったら出て行ってええねんぞ。」
鉄二が正志を睨んだ。
「あ~ん、いちいち人の言葉尻を取るな!」
正志も負けじと睨み返した。
「はいはい、喧嘩すんねんやったら2人とも出て行って。」
優子が間に入った。
「ふん!」
鉄二も正志も互いにそっぽを向いた。
強情な2人はまだわだかまりを持っているようだ。
そうこうしてる間にいよいよ料理が出来上がってきた。
「美味しいー!」
料理を一口食べ、武が真っ先に声をあげた。
他の招待客も皆、美味しそうな笑顔を見せている。
それほど料理の完成度は高かった。
鉄二も満足げにうなずいていた。
そのまま滞りなく披露宴は進み、メイン料理が和樹自らの手で運ばれてきた。
和樹は料理の皿を正志の前に置いた。
メイン料理はハンバーグライスであった。
「これがメインか?」
正志は思わずつぶやいた。
「うん、俺が初めて食べたおじいさんの料理やから。」
「だから父さんに一番食べて欲しかった。」
正志はうなずいてハンバーグを一口食べた。
その味は子供の頃から慣れ親しんできた味そのままであった。
「よう出来てる。」
正志はそう言ったあとしばらく黙っていたが
「親父!」
急に鉄二に話しかけた。
「また和樹のハンバーグ喰いに来てええか?」
「ああ、ここはお前の家やからな。」
「いつでも帰ってきたらええ。」
鉄二は穏やかに答えた。
和樹はそれを聞いて涙が出そうになった。
数日後。
その日も真田亭は大勢のお客で賑わっていた。
「ハンバーグライス1丁。」
茜の明るい声と
「はいよ!」
和樹の元気な声を響かせて。
END