和樹が両親に手紙を出した数日後。


いつものように和樹と茜は真田亭のキッチンで、ディナータイムの仕込みをしていた。


この日はめずらしく武が遊びに来ていた。


「パパ、こんなところで遊んでていいの?」


茜はキャベツの千切りをザルに移しながら客席の武を見た。


「いいの、いいの。」


「敏明くんがお料理の上手な人いっぱい集めてくれたから。」


「夕方は僕、何にもしなくてよくなったの。」


「だから休憩、休憩。」


武はのん気に笑った。


そのとき表のドアが開いた。


和樹はそちらの方に視線を向けると、息が止まるほど驚いた。


入ってきたのは正志であった。


正志はキッチンに入って来ると


「帰るぞ!」


そう言うなり和樹の腕をつかんで引っ張った。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!」


和樹は何とか抵抗しようとした。


茜も


「おじさん、待ってください。」


正志を制止しようとした。


だが正志の力は強く、和樹は客席のほうまで引きずっていかれた。


「おっちゃん、和くんに何すんねん!」


客席で見ていた武が正志の腕をつかんだ。


「何じゃ、お前!」


正志は武を睨みつけた。


「僕?僕は・・・・・・・・・・」


「私の父です。」


武が言う前に茜が紹介した。


「和くんのお父さんよ。」


武にも正志を紹介した。


「って言うことはお兄ちゃん?」


茜は無言でうなずいた。


武は正志から手を離し


「初めましてお兄ちゃん、僕、武です。」


ペコリと頭を下げた。


さすがの正志も呆気にとられ


「変わっとるな。」


一言つぶやいた。


和樹はその隙に正志の腕から逃れた。


「待ってくれって言うてるのに。」


和樹はつかまれていた腕をさすりながら文句を言った。


次の瞬間、正志の拳が和樹の顔面をとらえた。


「人が下手に出てたら調子乗りやがって!」


正志は怒りの言葉を倒れた和樹に投げかけた。