和樹は両親に手紙を書いた。
「拝啓、父さん、母さん。
突然の手紙ですいません。
電話ではなかなか言い出せないと思ったので、手紙を書きました。
実は2人にたくさんウソをついていたことを告白し、謝らなければなりません。
まず教師になりたいということ。
これは大阪に出るための方便でした。
だから塾でバイトしているというのもウソです。
俺が大阪でほんとうにやりたいこと。
それは料理人です。
大学に入って間もない頃、俺は偶然鉄二おじいさんと出会いました。
もちろんお互いに祖父と孫ということは知りませんでした。
でもそんな関係は知らなくとも、俺はおじいさんの下で働き始めました。
バイトが忙しいと言っていたのは、おじいさんの店でもあり父さんの実家でもある真田亭での仕事でした。
おじいさんは厳しいけど、俺はおじいさんの弟子になります。
だからせっかく入学金や授業料を払ってもらったけど、大学は辞めるつもりです。
それと茜のことですが、当然塾の娘などではありません。
茜は父さんの妹、優子おばさんの娘です。
優子おばさんも茜も真田亭で働いています。
俺と茜は従姉弟同士とは知らないまま、愛し合うようになっていました。
従姉弟同士とわかった今でも、2人の気持ちは変わりません。
俺はいずれ茜と結婚して、真田亭を継ぎます。
おじいさんは勘当されるぞ!
と言ってますが、俺は勘当されるつもりはありません。
それどころか、父さんに大阪に出てきてもらっておじいさんと仲直りしてほしいと思ってます。
俺、父さんがときどき寂しそうな顔してたの知ってます。
本当は父さんも家出したこと後悔してるんじゃないですか?
もっともっと話し合って、正式に陶芸家になることを許してほしかったんじゃないですか?
俺はそう考えています。
だから俺は勘当されません。
絶対にわかってもらいます。
そしていつか俺の作った料理を食べてもらうつもりです。
今までずっとウソをついていてごめんなさい。
そのことについては心から謝ります。
だからどうか俺の気持ちわかってください。
もうすぐ真田亭は盆休みに入ります。
そのときは茜を連れてそちらに帰ります。
正月と同じようにあたたかく迎えてくれることを願っています。
和樹 」