和樹は1人マンションのベットの上で寝転がっていた。
どうするべきか?
鉄二の下でコックの修行を続けたい。
かといって簡単に両親と縁を切るなんてこともできない。
茜のこともある。
将来は結婚しようと考えていた。
だがまさか従姉弟だったとは。
法律的には従姉弟同士の結婚は認められているが、だからといって手放しで受け入れられるものでもない。
和樹の思考は答えの出ない堂々巡りを繰り返していた。
そしていつの間にか眠っていた。
和樹は夢を見た。
幼い自分と両親、それに祖父母がいっしょに近くの山にハイキングに行ったときの夢だ。
和樹にとっての祖父母とは母雪子の両親であり、父正志にすれば陶芸の師匠夫妻になる。
2人とも和樹が小学生のときに他界した。
みんな楽しそうに笑っているが、ときおり正志だけが寂しそうな顔をした。
幼い自分が口を開いた。
「お父ちゃん、寂しいの?」
父は首を振って
「いいや、お前やお母ちゃん、おじいちゃん、おばあちゃんがいてるから寂しくないよ。」
なぜか幼い自分は激高して
「ウソや!ウソや!」
「本当のお父ちゃんとお母ちゃんのとこに帰りたいねんやろ。」
父は困った顔をして
「そんなことない。」
「ウソや!ウソや!」
「本当は家出してきたこと、後悔してるんやろ。」
幼い自分は執拗に父を責めた。
父はついに観念したのか、無言でうなずくと幼い自分を抱き寄せた。
その感触はとても心地よく温かだった。
気がつくと自分を抱きしめているのが茜に変わっていた。
茜は泣いていた。
なぐさめるために強く抱こうとすると、急に自分から離れていった。
必死で追いかけたが追いつけない。
だから叫んだ。
「ゴメン!」
「従姉弟ってわかってから、どっか引っかかってた。」
「でもやっぱり俺には茜が必要や!」
「ずっとずっとそばにいてほしい!」
叫び終わると今まで離れ続けていた茜の動きが止まった。
そしてようやく手が届こうとしたとき
「ピンポーン!」
チャイムに阻まれた。
「チッ!」
舌打ちしたとき、目が覚めた。
「ピンポーン!」
現実にチャイムが鳴っているのだ。