ドゥマン日本店のプレオープンの日がやってきた。
店には招待客を始め、多くのマスコミが詰め掛けていた。
日本はもちろん、フランスからも。
ジョエル・エルネストも来日し、共にセレモニーに参加した。
マスコミは無名の武より、ジョエルに殺到し
「これからいよいよ海外進出ですか?」
そういった類の質問を投げかけた。
ジョエルは言下に否定し
「ドゥマンは世界でたった2軒。」
「こことフランスだけ。」
「それはこれからもずっと変わることはない。」
きっぱり言い切った。
「ということはそれだけ宮内シェフが、あなたの弟子の中で飛びぬけて優秀だということなんですね。」
この質問もジョエルはすぐさま否定した。
「あなた方は何か勘違いをしておられます。」
「武は私の弟子などではない。」
「共に料理を作ることを喜び合える友人なのです。」
「私が彼に教えたことなど何もない。」
「彼は初めから全てを知っていた。」
「みなさんは私のことを『20世紀最高の料理人』と言われますが、その称号は武にこそふさわしい。」
「おそらく、21世紀でも彼を越える料理人はでないと私は思っています。」
このジョエルのスピーチにマスコミは懐疑的だった。
あまりにも褒めすぎなのではないか?
そんな空気が流れた。
しかし振舞われた料理を食べた瞬間、その雰囲気は霧散した。
人種に関わらず、食べた人全てが料理の味に陶酔した。
ジョエルも満足そうにうなずいていた。
それは招待されていた真田家の面々も同じであった。
武の晴れの舞台に皆、最高の笑顔である。
普段は気難しい鉄二でさえも、うれしそうな顔をしていた。
和樹も心からの笑顔を向けていた。
最初に武の実力を見たとき、あまりにもレベルが違いすぎて落ち込んだが、鉄二に言われたことで吹っ切ることができた。
武は武、自分は自分。
武のような天才的な才能がなくても、努力すれば最高のハンバーグを作ることができる。
鉄二を見てそう思った。
そして自分はあらためて鉄二の弟子なんだと思い知った。
もうどんなに両親が反対しても、大学を辞め料理人として生きていく。
そう心に誓う和樹であった。