すぐに非常線が張られた。


が、見つかったのはバイクとヘルメットだけであった。


高速道路の出口近くの路地である。


付近で訊き込みも行われたが、有力な情報は得られなかった。


もっとも手がかりが黒いブルゾンに紺のジーンズ、赤いリュックサックを背負った人物では捕らえようはなかった。


バイクを乗り捨てるときにかばんを入れ替え、上着を変えれば済む話なのだ。


警察はおもいきって公開捜査に踏み切ったが、それでも手がかりは得られなかった。


宮本隆子と須藤哲也にも事情聴取を行なったが、彼らの潔白が証明されただけであった。


彼ら自身にアリバイがあったし、彼らの周囲でそのようなことをする人物も浮かんでこなかった。


捜査は行き詰っていた。


あとはせめて美咲が無事に解放されればよかったが、それも叶わなかった。


事件後、1週間が経過しても美咲の行方はようとして知れない。


捜査は依然続いているが、すでにあきらめの雰囲気が流れていた。


成人女性が誘拐され、身代金まで奪われて解放されない。


これはすでに殺されていると。


警察はともかく世間ではそういう空気であった。


それは小野田家でも・・・・・・・・・・・


「私たちが人様の恨みを買うようなことをしてきたから、美咲が犠牲になったのよ。」


千秋は心労から床に伏せ、こう言って泣き暮らしていた。


以前の信貴なら


「そんな馬鹿なことがあってたまるか!」


と一喝していたところだが、さすがに今回ばかりはちがった。


信貴自身、多くの人間から恨みを買っているのを自覚していた。


そのことが、少なからず今回の事件に関わっているような気がしてならなかったのだ。


それにあれほど熱をあげていた茜に対してもすっかり冷めてしまった。


茜だけが、今回の事件で唯一誘拐犯と対峙したのだ。


誘拐犯に果敢に抵抗せよとは言わないが、せめて美咲の安否なり、居場所なりを少しは聞き出してほしかった。


少なくても自分たち家族の中の誰かなら、絶対にそうしていたはずだった。


もしそうしていれば、ちがった結果になっていたかも知れなかったのだ。


そう考えるとやりきれないものがあった。


もう茜との関係は清算するつもりでいた。


それが美咲に対して、せめてもの罪滅ぼしのような気がした。


そんな悲しみに包まれている小野田家であったが、ただ1人陽菜だけはちがっていた。


彼女は姉の生存を信じて疑わなかった。


そして唯一、彼女だけが知りえたヒントを手がかりに姉の行方を追っていた。


たった1人で。