「ところで警部、身代金をバラ撒いたことは他の班に知らせるんですか?」


信貴が待ち続けているホテルのロビーラウンジ。


年かさの刑事が豊田警部に質問した。


「いや、余計な情報はいれないほうがいいだろう。」


「そのほうが目の前のことに集中できるからね。」


豊田警部がそう答えたとき、携帯が鳴った。


またもドキリとしたが、あいかわらず信貴に動きはない。


今回も他のところでの動きである。


遠藤茜担当の刑事からの電話であった。


豊田警部は報告を聞くうち


「なっ!」


と思わず声をあげそうになった。


それでも何とか声を抑え、報告を聞き終えた。


「警部、まさか・・・・・・・」


電話を置いた豊田警部に年かさの刑事が声をかけた。


豊田警部は力なくうなずいて


「やられたよ、遠藤茜が運んでいた1億円が奪われた。」


「くそっ!」


若い刑事が口惜しそうに自分の掌を拳で叩いた。


「だがまだチャンスはある。」


「ここでの犯人確保に全力を尽くそう!」


豊田警部は部下2人にというより、自分自身に言い聞かせた。


このとき、信貴に動きがあった。


メールが来たようだ。


メールを見た信貴は驚いて立ち上がり、豊田警部のところにやってきた。


「どういうことなんです、これは!」


顔を真っ赤にした信貴が、自分の携帯を見せながら詰め寄った。


『身代金の1億円は頂いた。


取り引きは終了する。』


「あっ!」


若い刑事が声をあげた。


豊田警部はこの瞬間、犯人の意図がすべてわかった。


犯人の狙いは初めから遠藤茜の運ぶ1億円だけだったのだ。


いやにのんびりしていたのも、渋滞を待っていたからだ。


今さら気づいても後の祭りであるが・・・・・・・・・