「シー!声が大きい!」
年かさの刑事が注意した。
「す、すんません、でも・・・・・・・」
「気持ちはわかるよ。」
豊田警部はうなずいた。
「でもいったい何のために?」
年かさの刑事が首を捻った。
「あれじゃないですか?」
若い刑事が汚名返上とばかりに口を開いた。
「あれって?」
豊田警部は興味を持って聞き返した。
「身代金を奪うのが目的じゃなく、小野田一家に損をさせるのが目的だとしたら。」
「なるほど。」
年かさの刑事はうなずいた。
だが豊田警部は納得がいかなかったようだ。
「ダメですか、警部?」
若い刑事が豊田警部の顔色をうかがった。
「おそらくだが、金はほとんど返ってくると思うよ。」
「そうでしょうか?」
年かさの刑事が疑問をはさんだ。
「いきなり一万円札がふってきたら興奮して拾うかもしれないが、落ち着いたら届けるだろう。」
「少なくても私ならそうする。」
「善人ぶって言ってるんじゃない。」
「冷静に考えたらバラ撒かれる金なんて曰くつきに決まってる。」
「そんな金、数万もらっただけで、厄介ごとに巻き込まれるのはごめんだからね。」
豊田警部の答えに2人は納得したようにうなずいた。
「だとしたら何のために?」
もう一度最初の疑問を若い刑事が口にした。
「これも推測だが・・・・・・」
豊田警部は前置きをして
「確認したんじゃないか?」
「確認?」
年かさの刑事が聞き返す。
「そう何と言っても5億だからね。」
「全部本物かどうか確認したんじゃないかな?」
「危険を冒して手に入れた後、偽物でしたじゃ割りに合わないからね。」
「でもそのためだけに1億円をバラ撒いたんですか?」
若い刑事は納得がいかないようだ。
「1億って言っても他人の金だからね、自分の懐が痛むわけじゃない。」
「それにバラ撒くことで捜査かく乱の効果も狙ったんじゃないかな?」
「う~ん、そんなもんですかね。」
若い刑事には1億円をみすみす手放す犯人の気持ちが理解できなかった。