同時刻、新神戸駅。


茜はイライラしていた。


もうここについて30分以上も待っている。


が、未だに何の音沙汰もない。


愛人でもあり社長でもある信貴の頼みだからやっているが、本当ならとうに投げ出しているところだ。


おまけにいっしょに待っているのは、ほとんど話したこともない静代なのだ。


「金がほしいのなら、とっとと取りに来い!」


と叫びたい心境だった。


そんなとき地味な着信音が聞こえた。


静代にメールが来たようだ。


あわてて携帯を取り出した静代はおそるおそる画面を見た。


送り主は美咲である。


つまり犯人からのメールだ。


静代は震える指で画面にメールを出した。


茜も横から覗き込んだ。


『山本静代に次の指示を与える。


16:22発、下りのぞみ33号に乗り込み


広島駅に向かうこと。


到着後、南口出口で待つこと。』


「こ、これは・・・・・・」


静代が茜に意見を求めてきた。


茜は小声で


「打ち合わせどおりに刑事さんにそのメールを転送してください。」


それから時計を見て


「もう時間がないから急いでキップを買いに行って。」


事務的なテキパキした口調で静代の行動を促した。


静代はただ言われるがままにメールを転送し、キップを買うため窓口に向かった。


そんな静代を見送った茜は


「何で私がこんなことまでせなあかんのよ!」


と文句が口をついて出た。


そのとき、茜の携帯も鳴った。


いよいよ来たか!


と思い携帯を見るとやはり美咲の文字が。


急いでメールを画面に出すと


『遠藤茜に次の指示を与える。


そこから車でヒルトン大阪に向かうこと。


到着後、ロビーラウンジで待つこと。』


茜はメールを確認するとすぐ担当刑事に転送した。


少し離れた位置にいる刑事がメールを確認したのを見ると、駐車場に向かって歩き出した。


とくに時間指定されたわけではないが、茜は急いでいた。


一刻も早くこんなことは終わらせたかったのだ。


助手席にリュックサックを置き、車に乗り込むとすぐにエンジンをスタートさせた。


駐車場から出てきた茜の車は、先を急ぐように大阪方面に向け走り出した。


それから少し間をあけて、覆面パトカーがついていく。


その様子を遠くから見ている人物がいた。


その人物は覆面パトカーが完全に視界から消えたのを確認すると行動を開始した。