全員に緊張が走る。


信貴の携帯は短い着信音を鳴らしたあと静かになった。


信貴がおそるおそる携帯を取り上げると、小さい画面に美咲の文字が見えた。


犯人からのメールである。


信貴が携帯を開き、メールを画面に出した。


「小野田さん、読んでいただけますか?」


豊田警部が声をかけた。


信貴はうなずくとメールを声を出して読み始めた。


『これより身代金の受け渡し方法を記載する。


まず5億円を1億円ずつリュックサックに詰めること。


この際、現金以外の物、発信機、携帯電話等、


絶対に入れないこと。


取引終了後、中によけいな物が入っていた場合、


美咲の身の安全は保障しかねる。


次に5つのリュックサックを


小野田信貴、小野田千秋、小野田陽菜、


山本静代、遠藤茜の5人にそれぞれ持たせること。


5人はそれぞれ自分の携帯電話を所持すること。


準備ができたころまた連絡する。』


読み終わると部屋の中が静まりかえった。


(やはり・・・・・・・)


陽菜は自分の勘が当たっていたことを実感した。


犯人は相当、狡猾な人物だ。


5億円を1人で運ぶのは無理だが、1億円なら1人でも運べる。


リュックサックに入れて、両肩にさげれば女性でも充分運ぶことができる。


5人それぞれに携帯を持たせ、バラバラに指示を与える。


そして5ヶ所で1億円ずつ受け取るつもりなのだろう。


陽菜は運び役に選ばれたことを恐れてはいなかった。


むしろ自分の手で姉を救出するぐらいの気構えがあった。


気の毒なのは静代だった。


名前が出た途端、ブルブル震えだした。


「わ、私がお金を運ぶんですか?」


声まで震えていた。


「お願いします、山本さん。」


信貴はそう言って深々と頭を下げた。


千秋や陽菜もそれに従った。


豊田警部も


「安全は我々が絶対に保障します、どうかご協力ください。」


頭を下げた。


静代はうなずきながら


「だ、だいじょうぶです。」


「急に名前がでたからびっくりしただけで、美咲さんのためにがんばります。」


力強く答えた。


「ありがとう!山本さん。」


信貴がそう言うと千秋と陽菜は静代の手を握り締めた。


「それじゃ、遠藤さんにもご協力を要請していただけますか?」


豊田警部の言葉に


「わかりました。」


信貴はすぐ会社に電話した。