信貴の携帯に脅迫メールが届いた日から数えて3日目の朝。
小野田家の邸には、美咲を除く家族3人と家政婦の山本静代、それに豊田警部をはじめとする大勢の刑事が待機していた。
身代金の5億円は5つのアタッシュケースに入れられ、リビング中央に置かれている。
信貴が4億円、千秋が1億円を用意した。
それぞれのメインバンクに無理を言い、早朝運び込まれた。
この3日間でいくつかわかったことがあった。
まず美咲の携帯の電源は、美咲が姿を消した日の午後5時43分に切られていた。
場所は小野田家の近辺である。
このことから犯人は美咲の帰宅を待ち構え、車で拉致したと思われる。
そして脅迫メールが送られた朝、阪急三宮駅近辺で電波がキャッチされた。
20分程電波を発信し、その後切られた。
ちょうど信貴とのやり取りに使われた時間と一致している。
その後は一切、電源は入れられていない。
宮本隆子と須藤哲也に監視がつけられたが、2人にあやしいそぶりはなかった。
が、むしろ彼らが犯人の場合、自らは動かず共犯者を使う可能性のほうが高い。
そういった意味で彼らの監視は今後も続けられる。
小野田家に集まった人々は緊張した面持ちで、犯人からのメールを待った。
しかし一向に犯人からのメールがこない。
正午近くになり
「どういうつもりなんでしょうか?」
イライラした表情で信貴が豊田警部を見た。
「まあ落ち着いてください。」
「そうやってこちらを焦らす作戦かもしれませんのでね。」
「冷静さを保つことが今は一番大切です。」
「わ、わかりました。」
豊田警部に諭された信貴であったが、それでも落ち着かないのか、しきりにたばこをふかしていた。
「ところで警部さん。」
今度は陽菜が話しかけた。
「何ですか?陽菜さん。」
豊田警部は陽菜のほうに視線を向けた。
「5億円ってすごい量ですよね。」
「かさもあるし、重さもすごいし。」
「犯人はこれをどうやって運ぶつもりなんでしょう?」
「とても1人で運べる量じゃないですよね。」
陽菜の質問に豊田警部はうなずきながら
「陽菜さんの疑問はもっともです。」
「我々もそのことに注目しているんです。」
「いったい犯人はどうするつもりなのか?」
「あっさり指定場所に車で取りに来てくれれば、我々としてもありがたいんですが・・・・・・・・・」
そう言って豊田警部は笑った。
だが陽菜はこの犯人が、そんな単純な人間ではないような気がした。
そのとき、信貴の携帯が鳴った。