事情聴取が終わったので、信貴と千秋はそれぞれのメインバンクに身代金の調達に行くことになった。


念のため、それぞれ刑事が1人ずつついて行く。


警護と事情説明のためだ。


遠藤茜は信貴の仕事をしばらくキャンセルするため、本社に向かった。


また豊田警部も若い刑事を残し、捜査本部のある芦屋警察署に戻った。


宮本隆子、須藤哲也の身辺調査。


美咲の写っている画像の精細な調査。


携帯電話の会社にも協力を要請しなければならない。


電波からその居所を割り出すためである。


陽菜も若い刑事の相手を静代に任せ、自分の部屋に戻った。


休むためではない。


陽菜には気になることがあった。


学のことである。


以前、彼の前でまとまったお金がほしいと言ったことがあった。


そのとき学の様子が何となくおかしかった。


まさかとは思うが・・・・・・・・・・


それだけに確認せずにはいられなかった。


部屋に入り、携帯に学のアドレスを出す。


発信ボタンを押す指が異様に震えた。


呼び出し音が鳴っている間、今度は心臓が異様なほどバクバクなる。


しかし学が出ることはなく、そのまま留守電になった。


ほっとしたと同時に言い知れぬ不安に襲われた。


普段の学は陽菜が連絡すればすぐ電話に出た。


そして仕事を放っておいても駆けつけてくれた。


それが今日に限って電話にも出ないなんて・・・・・・・


やっぱり学が姉を・・・・・・・・・


そんな馬鹿なと思いつつも、悪い想像ばかりが頭を巡る。


もしそんなことであれば、全て自分のせいだ。


陽菜は自責の念に押し潰されそうになった。


正午をまわり


「陽菜さん、お昼の準備ができましたよ。」


と静代が声をかけてくれたが、とても食べられる心境ではなかった。


「あとでいただきます。」


そう断るのが精一杯だった。


その後も陽菜の苦悩の時間は続いたが、1時ごろ携帯が鳴った。


慌てて携帯を見ると学からである。


陽菜は震える指で着信ボタンを押した。


「もしもし陽菜!」


そこからはいつもと変わらない、明るい学の声が聞こえてきた。