「・・・・・・・ュウ、リュウ!」


隆一は揺り動かされて目を覚ました。


「あれ?・・・・・・・ユリ?・・・・・・・・なんで?」


「今さっきコールドスリープについたばかりなのに?」


隆一はすっかりパニックになっていた。


「はあ?何ねぼけてんのよ。」


「また夜遅くまで、アニメのDVD見てたんでしょ。」


「学校遅れるよ。」


「えっ?学校?なんで?」


そう言えばユリはセーラー服を着ている。


これは夢なのか?


とにかくセーラー服姿のユリに起こされ、着替えて下に降りていくと両親と佳織がいた。


「ゴメンね、ユリちゃん、私が言ってもぜんぜん起きないから。」


幸子が呆れたように言う。


「ホントお姉ちゃんえらいよね、よくうちのバカアニキの面倒みてるよ。」


佳織の悪態に


「へへっ、腐れ縁だからもうなれちゃった!」


ユリは屈託のない笑顔を見せた。


「コラッ!リュウ!いつまでユリちゃん待たせるつもりだ!さっさと喰って学校に行け!」


慎一の雷が落ちた。


「あ、ああ、わかったよ。」


隆一は見慣れた実家のテーブルにつくとトーストをかじった。





「ねぇ、どうしちゃったの?」


「今日、ホントおかしいよ。」


学校からの帰り道、ユリが心配そうに訊いてきた。


隆一は未だ戸惑っている。


今歩いている道も学校もすべて、隆一の記憶の中にあるそのままだった。


ただ1つちがうのはユリがいることだけだ。


ユリとは幼馴染みのようだが、もちろんそんな幼馴染みはいなかった。


やっぱり簡単に目覚めることができないため、こんなリアルな夢を見ているのか?


それとも・・・・・・・・・・


本当にこちらが現実で、今までの体験が夢だったのか?


「・・・・・・・聞いてる?」


ユリが大きな声を出した。


「ああ、ゴメン!」


隆一は思わず謝った。


「もう!」


ユリは少しむくれて見せたが


「悩み事があるんなら言ってよ!」


「どんな事だって聞くから。」


そう言って隆一の手をやさしく握った。


隆一はユリの手を握ったまま、近くの神社の境内に向かった。


夕方なので他に人はいない。


隆一はそこでユリにすべてを打ち明けた。


さすがにバカにされるかと思ったが、聞き終えたユリは目に涙を溜めていた。


「ユリ?」


隆一が声をかけるといきなり抱きついてきた。


「よかった、私、違う世界でもちゃんとリュウのそばにいるんだ。」


「それでリュウも私のこと大事に思っててくれたんだ。」


「信じてくれるの?」


隆一はおそるおそる訊いてみた。


「わかんない、今のこの世界がリュウの夢かどうかなんて・・・・・・・」


「でも・・・・・・・・」


「でも?」


隆一が訊き返すと


「どんな世界にいてもリュウはリュウだし、私は私。」


「そして2人は絶対にいっしょだから。」


ユリはそれだけ言うと目をつぶった。


隆一は唇を重ねた。


その感触はあちらの世界のユリとまったく同じであった。


隆一はどちらの世界が夢か考えるのを止めた。


もうそんなことはどうでもよかった。


ユリがそばにいてくれて、いっしょに生きていければそれでいいと思った。


こちらの世界でも、あちらの世界でも・・・・・・・・


「帰ろう!」


唇を離すと隆一が元気よく言った。


ユリは隆一がいつもの明るい表情に戻っていたのでうれしかった。


「うん!」


2人は手をつなぐと夕暮れの石段をゆっくり降りていった。


そんな2人の背中を夕日がいつまでも照らしていた。



          END