「じゃあ、そろそろ頼むよ。」


隆一は気軽に声をかけた。


それに反してユリは重苦しい表情だった。


「本当にいいのね?もう戻って来れないのよ。」


「だから何度も言ったじゃないか、覚悟できてるって!」


「それにどのみち俺、死んだことになってるしね。」


「ちょうど良かったよ。」


隆一は努めて明るく言った。


「でもせめてご家族には会ったほうが・・・・・・・・」


ユリは納得いかない様子だった。


「もういいって!」


「せっかく会いに行っても『これからコールドスリープに入るからもう会えません』なんて言えるわけないじゃないか!」


「そうだけど・・・・・・」


ユリはションボリうつむいてしまった。


その瞳からは涙があふれていた。


そんなユリを元気づけるように


「俺は後悔してないから。」


「むしろ誇りにさえ思ってるから。」


「また人類に破滅の危機が訪れたときは、ガスト・ディバインと共に目覚めるからさ。」


「だからそんな悲しそうな顔しないでよ。」


隆一はそう言ってうつむいているユリの涙を拭ってやった。


ユリは顔を上げ


「でもそのときにはリュウの知っている人は誰もいないのよ。」


ユリはさらに涙を流した。


「でもユリがいるじゃないか?」


隆一はそう言ってユリを抱きしめた。


「俺はそれでいいんだよ。」


ユリは嗚咽して話すことはできなかった。





隆一はコールドスリープ用のカプセルに横たわった。


あとは蓋を閉めれば、永い眠りにつくことができる。


「ユリ、あとのことはたのんだよ。」


「ええ。」


もうユリは泣いてはいなかった。


いつもの冷静さを取り戻していた。


「それと・・・・・・・・・」


隆一は少し言いよどむと


「家族のこと見守っててほしいんだ。」


「もちろん。」


ユリはニッコリ笑った。


隆一もユリの笑顔を見ると安心したように微笑んだ。


そのあとユリを抱き寄せキスをした。


唇を離すと


「じゃあね。」


「ええ。」


2人は短い言葉を交わした。


その後、ゆっくりと蓋が閉められ隆一は目をつぶった。


とりあえずしばらくの間は、大きな争いはなくなるだろう。


だが人類の歴史から争いが完全に消えることはない。


きっとまたガスト・ディバインの力が必要になるときがくる。


隆一はそのとき、またユリに新たなパートナーを探させたくなかった。


だからこの方法を選んだ。


両親には申し訳なかったが・・・・・・・・・・・


そんなことを考えていると深い眠りが隆一を包み込んでいく。


隆一の頭には今までの人生が走馬灯のように流れていった。


「そっか、眠るって言っても仮死状態だからこんなふうになるんだ。」


最後に隆一が考えた冷静なことがらだった。