ロシアが軍事行動を起こした日から1週間が経過した。


マイケル・シューバーが宣言した旧エネルギーから重力波エネルギーへの切り替え事業が始まった。


小さなゲリラ的活動は別にして、国家レベルでシューバーグループに敵対する者はいなくなった。


いや正確にはミディエイターにだが・・・・・・・


それだけロシア軍と巨大ミディエイターの戦闘は人々にインパクトを与えた。


あれだけの大艦隊でもかすり傷1つ負わすことはできなかったのだ。


敵対しても無駄だ。


そんな気持ちが人々の中に芽生えた。


世界は大きく動き始めた。






笠原慎一は部下といっしょに馴染みの定食屋に入った。


店のテレビではあいかわらず、ロシア軍と巨大ミディエイターの戦闘の模様が映し出されている。


この1週間、ニュースもワイドショーもこの話題ばかりだった。


注文を終えた部下が


「それにしてもこれからどうなっちゃうんでしょうね。」


ため息まじりにつぶやいた。


「さあな、なるようになるんじゃないのか?」


慎一がさりげなく答えると


「課長は肝が据わってるんですね~。」


部下が感心したように言う。


「そうでもないさ。」


慎一は誤魔化すように笑った。


実際、不安がないわけではなかった。


慎一の勤めている会社は中堅の機械部品を作っている会社であるが、ここ最近の世情不安のため仕事が極端に減っている。


倒産ということも無きにしも非ずだ。

長男の隆一はなんとか法学部を卒業したが、司法試験を目指しているのか未だに就職せずアルバイトで生計を立てているようだ。


娘の佳織もまだ大学生で金はかかる。


家のローンも残っている。


不安を言い出したらきりがない。


だからせめて自分自身には


「何とかなるさ!」


と言い聞かしているのだ。


慎一がぼんやりそんなことを考えている間に注文の品がきた。


部下と2人、食べ慣れた定食をつついているといつの間にかテレビの場面が変わっていた。


『それではこれよりマイケル・シューバー氏の緊急記者会見の模様をお伝えします。』


ワイドショーの司会者がコメントを読んでいるところだった。


噂のマイケル・シューバーが緊急記者会見を行うのか。


いったい何事を発表するつもりなのか・・・・・・・


慎一は箸を止めて注目した。


会見場にマイケル・シューバーが現れた。


誰かを伴っている。


壇上にマイケルが登った。


マイケルは前置きは抜きでいきなり話し始めた。


「今日は私の友人が新たな会社を作るので、その発表を行ないたい。」


「いったい何の会社です。」


記者の1人が質問した。


「詳しくは後で出るが、スペースコロニーを作る会社だ。」


皆、マイケルの答えに呆気に取られた。


マイケルは構わず


「それでは私の良き友人で、新たな会社の若きリーダー‘‘リュウイチ・カサハラ’’だ。」


慎一は一瞬、耳を疑った。


だがマイケルに促されて壇上に登った若者は、間違いなく自分の息子笠原隆一であった。