全艦隊が攻撃態勢に入った。
前方上空には巨大ミディエイターの姿がある。
50mの漆黒の物体が、微動だにせず空中に浮かんでいるさまは不気味であった。
いやそれは自分たちが敵側に回っているせいだろう。
もし味方であれば天使、あるいは神に見えるのかもしれない。
ロドレフスキーはふとそんなことを思った。
「全艦、攻撃態勢整いました。」
副官からの報告が入る。
「攻撃開始!」
ロドレフスキーの命令がブリッジに響いた。
全艦隊に備えられている重火器が一斉に火を噴く。
瞬く間に巨大ミディエイターが火球に包まれた。
それでもロドレフスキーは攻撃の手を緩めなかった。
どうせ攻撃は利いていないだろう。
そんなことは百も承知している。
ロドレフスキーの目的は別にあった。
こんなふうに武器を乱射しながら移動していれば、転移させることはできないはずだ。
もし今、この艦隊をどこか別の場所に転移させれば、その場所は大惨事になる。
海のど真ん中に転移させたとしても、周囲に船舶や飛行機が通過中であれば簡単に撃墜してしまう。
そうなればシューバーに非難が集中するのだ。
艦隊を止めるには撃破するしかない。
そのときは、その様子を全世界に流す。
巨大ミディエイターが艦隊を次々に撃破していく映像を見れば、恐怖を感じシューバーに抵抗する者も増えるであろう。
中途半端に手加減すれば、ボロボロになっても日本へ向かう。
これがロドレフスキー捨て身の作戦であった。
さあどうする?巨大ミディエイター!
ロドレフスキーは心の中でつぶやいた。
艦隊は武器を乱射しながら、ますます巨大ミディエイターに近づいていく。
そのとき、艦隊のあちこちから水柱があがった。
どうやら巨大ミディエイターが攻撃を始めたようだ。
だが本気で撃破する気はなさそうだ。
今の攻撃も当たってはいない。
彼らのヒューマニズムは筋金入りらしい。
勝った!
ロドレフスキーがそう思ったとき、轟音と共に船体が大きく揺れた。
攻撃が命中したのか?
だが今のは下からの振動であったが・・・・・・・・
そこまで考えてロドレフスキーはハッとした。
そうだ、ミディエイターの撃ち出すエネルギー弾は、彼らの意志で自由にコントロールできると言われている。
最初の攻撃はわざと外したわけではなく、海中に撃ちこんだのだ。
そしてミディエイターの狙いは・・・・・・・・・・
「推進装置が破壊されました!」
「チッ!」
ロドレフスキーは思わず舌打ちをした。
船体のスピードがどんどん落ちていく。
もちろん全艦同じである。
ロドレフスキーは攻撃を中止させた。
完全なる敗北であった。
艦隊からの攻撃が止んでしばらくすると、煙がはれ巨大ミディエイターが姿を現した。
その姿は攻撃前となんら変わることはなかった。
ロドレフスキーは忌々しそうにその姿を見上げた。