ブリッジのモニターには巨大ミディエイターの全身の様子が映し出されていた。
偵察機はもうすぐ戦闘が始まるかもしれないため、少し離れた位置から撮影しているようだ。
モニター映像の中に戦闘機の姿が現れた。
いよいよ巨大ミディエイターと接触する。
正確に言うと横をすり抜けるだけだが・・・・・・・・・
ブリッジの中の空気が張り詰める。
もちろんロドレフスキーも緊張しているが、勝算はあった。
ミディエイターたちは呆れるほどのヒューマニストなのだ。
彼らはたとえ残虐なテロリストといえども、その命を簡単に奪うようなマネはしなかった。
まして我々は主義主張こそちがえど一国の軍隊なのだ。
彼らが本気で攻撃するとは考えにくかった。
そしてその甘さが彼らの命取りになる。
最悪、戦闘機だけでも日本領空を犯し、威嚇行動をとることができれば今回の作戦は成功といえた。
あの巨大ミディエイターは彼らの切り札であろう。
その切り札を持ってしても我々の軍事行動を阻止することはできなかった。
という事実を全世界に向けアピールすれば、シューバー陣営も譲歩せざるを得ないだろう。
ロドレフスキーは固唾をのんで、モニターを見つめた。
戦闘機部隊は大きく散開し、ミディエイターの横を次々すり抜けて行った。
巨大ミディエイターは微動だにしない。
ロドレフスキーはほっと息をついた。
次の瞬間、巨大ミディエイターの横をすり抜けたはずの戦闘機が次々に消えていった。
決して、撃墜されたわけではない。
火の手どころか音もまったくしていないのだから。
本当に手品のように次々と戦闘機が画像から消えていくのだ。
いったい何があったのか・・・・・・・・・
ロドレフスキーはすぐに自分を落ち着かせ、冷静に頭脳を働かせた。
ミディエイターたちは空間転移ができた。
自分たちが転移できるなら、それ以外の物体も転移できると考えても不思議ではない。
戦闘機部隊はどこかちがう場所に転移させられたのではないか?
ロドレフスキーが考えをまとめたとき
「司令、戦闘機部隊から連絡が入りました。」
ロドレフスキーは落ち着いて
「今どこにいる?」
「モスクワ上空を飛行していると言っています。」
通信士は信じられないといった様子で伝えた。
ロドレフスキーは自分の推測が当たっていたことを知ると自嘲気味に笑った。
結局、自分たちはとんだピエロであったと。
ミディエイターの強大な力を全世界に向けてPRするためにわざわざ出撃してきたようなものだ。
おそらく全艦隊をあげて攻撃しても無駄であろう。
わかっていながらも、このまま引き返すこともできない。
とりあえず進むしかないのだ。
肉眼で巨大ミディエイターが視認できるところまで近づいてきた。
「攻撃準備、目標、巨大ミディエイター!」
ロドレフスキーは大声で命令を発した。