その日、ロシア艦隊はウラジオストク港から日本に向けて出発した。


目的は日本に対する威嚇である。


ロシア首脳陣も本格的な戦争を起こすつもりはない。


かといって、このまま黙ってシューバーの言いなりになるわけにもいかない。


石油をはじめとする化石燃料が、もうすぐ底をつくというのは子供でもわかっている。


新しいエネルギーシステムがあるのなら、切り替えるのも致し方がない。


だが3年というのはあまりにも性急すぎる。


せめて15年はかけてゆっくりと変革していく必要がある。


その譲歩を引き出すには、もはや武力行使しかない。


話し合いでは永延と平行線をたどるだけなのだ。


大艦隊で日本を威嚇し、戦争も辞さない覚悟を示せば、必ず時間的譲歩は引き出せるとロシア首脳陣は考えた。


最終的な戦略会議に出席していた艦隊司令ロドレフスキー中将も異論はなかった。


中途半端な軍事行動ではミディエイターたちに阻止されてしまう恐れがあった。


彼らがいくら絶大な力を発揮しようとも、この大艦隊をたった2人で止めるのは物理的に無理である。


もし彼らが現れても無視して横を通り抜けるだけだ。


多少の犠牲はやむをえない。


ロドレフスキーが思考を巡らせていると


「前方にミディエイター発見!」


偵察機からの第一報が入った。


ブリッジに緊張が走る。


ロドレフスキーは空母から艦載機の発進を命じた。


戦闘機に先行させ、ミディエイターの横をすり抜けさせる。


いくら彼らでもマッハで飛ぶ数十機の戦闘機全てを相手にするのは不可能のはずだ。


おまけにその後ろには大艦隊が控えているのだ。


甲板ではあわただしく発進準備がおこなわれ、次々と戦闘機が飛び立って行った。


そのとき偵察機からの第二報が入った。


「目標識別、人型の物体、ミディエイターと酷似するもその全長は約50m!」


「なに、そんな馬鹿な!」


ロドレフスキーは思わず叫んだ。


等身大でも通常の軍隊では歯が立たないほどのパワーがあるのだ。


それが全長50mだと!


とても信じられなかった。


しかし偵察機からは報告を裏付けるように映像が送られてきた。


それは小型カメラで人間を頭上から撮影しているような映像だった。


写っているのは間違いなく漆黒のミディエイターである。


だが撮影しているのは、小型カメラではなく全長数mの偵察機なのだ。


そう考えれば全長50mも信じるしかない。


「司令!」


副官がうろたえたように指示を仰ぐ。


ロドレフスキーは黙って考えていたが


「戦闘機は予定どおり、ミディエイターを無視しろ。」


「攻撃されても構うな。」


「偵察機はそのまま監視を続けろ。」


「各艦は第一戦闘配備。」


続けざまに命令を下した。


マッハで飛ぶ戦闘機はともかく、海の上を行く艦隊が無事に通れるとは思わない。


相手は全長50mの化け物なのだから。


かなわないまでも一泡吹かせなければシューバーの思うツボになってしまう。


ロドレフスキーは決死の覚悟を決めた。