「お帰りなさいませ。」


マイケル・シューバーは玄関前で執事の出迎えを受けた。


彼は手早く食事を済ませると、書斎に入り新しい企画書に目を通し始めた。


一段落して目をあげたとき、驚くべきものを目撃した。


目の前に漆黒のミディエイターが立っていたのだ。


思わず声をあげそうになったのを銀色の手がふさいだ。


背後にはいつの間にか白銀のミディエイターがいた。


「お静かに。」


白銀のミディエイターが静かに声を発した。


マイケルは小さくうなずいた。


「突然にお邪魔して失礼しました。」


今度は漆黒のミディエイターが声を発した。


「いったいこんな時間に何の用かな。」


マイケルは不機嫌そうに言った。


「単刀直入に言うとビジネスの話です。」


漆黒のミディエイターが言う。


「君たちがビジネスの話?いったい何のビジネスだい?」


マイケルは興味をそそられたようだ。


「私たちの使っているテクノロジーを買っていただきたい。」


「君たちのテクノロジー?具体的には?」


「重力制御の方法です。」


マイケルは思わず笑みをもらした。


「ほほう!そいつはすごい!いったいいくらだ。」


「1兆ドルで。」


マイケルは一瞬、驚きの表情を現したが、すぐ冷静な顔に戻って


「高い、っていいたいところだけど、重力が制御できれば既存のエナルギーはいらなくなるんだね。」


「お察しの通りです。」


「そうなると決して高い買い物じゃないね。」


「わかった1兆ドル支払おう。」


「でもさすがに即金は無理だ。」


「わかっています、分割で結構です。」


「よし、商談成立だ。」


マイケルは笑顔を見せた後


「それにしてもなぜ私の所にきた?」


率直な疑問をぶつけた。


漆黒のミディエイターはあらかじめ予想していたように


「あなたが世界最大のグループ企業のボスだからです。」


マイケルは答えに不満だったのか


「それだけじゃないだろ?」


「はい。」


漆黒のミディエイターは躊躇なく答えた。


「あなたが若いワンマン経営者いや独裁者だからです。」


マイケルが総帥を務めているシューバーグループが、世界最大になったのはここ1年のことである。


5年前に父からその経営を受け継ぐと瞬く間に業績を伸ばしていった。


中にはかなりきわどいこともやってきたが、それを露呈させないしたたかさを持っていた。


結果、シューバーを世界最大のグループ企業に押し上げた。


その実績のため、今では全てがマイケルのさじ加減一つで決まった。


1兆ドルなどという途方もない金額の支払いを即決できたのもそのためだ。