パワースーツを装着した隆一とユリが現場付近の上空にワープアウトすると、デモ隊と警官隊が一触即発状態にあった。


数時間前、警官隊が発砲しデモを鎮圧したかに見えたが、時間が経つとさらに人数は増えデモというより暴動に近い状態になっていた。


それを鎮圧するため、さらに多くの警官隊が導入されている。


まさにイタチゴッコだった。


このまま衝突すれば、死傷者の数が増えるのはあきらかだ。


「ユリは警官隊の動きを防いでて。」


隆一がユリに指示を与えた。


「ええ、わかったわ。」


ユリはうなずいた。


「俺はデモ隊を説得してみるから。」


言い終わると2人は警官隊とデモ隊の間に降り立った。


辺りは一瞬、騒然となる。


ウワサの魔人が2体そろってあらわれたからだ。


いったい何のために?


そんな声が聞こえてきそうな雰囲気であった。


その時、漆黒のパワースーツの隆一が声を発した。


「デモ隊は解散しろ!」


デモ隊の中にどよめきが起こり、すぐに隆一に向かって石や火炎瓶が投げつけられた。


隆一はバリアで防ぎながらどんどん前進して行った。


警官隊は様子を見ていたが、すぐにこの混乱に乗じようと発砲準備を始めた。


同じく白銀のパワースーツのユリが


「デモ隊は解散させるから、あなた方は引きなさい。」


警官隊にもどよめきが起こったが、はいそうですかというわけにはいかない。


発砲準備を整え、その銃口をユリに向けた。


隊長が命令を下すと一斉射撃が始まった。


ユリはバリアを広範囲に展開し、流れ弾がデモ隊のほうにいかないよう注意した。


この間に隆一はどんどん前進し、デモ隊を圧迫して行った。


たまりかねたのか、デモ隊のリーダーらしき人物があらわれた。


「なぜ我々の邪魔をする?」


強い口調で抗議してきた。


「このままだとより多くの死傷者が出る。」


隆一はつとめて冷静に言った。


もっとも隆一の言葉は現地語に変換され、機械の音声となって外に聞こえる。


ゆえに隆一自身の声色はあまり関係ないのだが。


リーダーの男はムッとした顔をして


「そんなことは充分承知している、だが行動を起こさなければ我々の生活はますます苦しくなる。」


隆一もそのあたりの事情はある程度理解している。


だからと言ってこの状況を見過ごすことはできない。


「もう少しだけ待ってくれないか?」


隆一は説得を続けた。


リーダーの男は不思議そうに


「何を待てと言うんだ。」


「俺が世界を変えるまで。」


リーダーの男は呆気にとられているが、隆一は構わずに続けた。


「楽園にするとは言わないが、もう少し住みやすい世の中に変えてみせる。」


言い終わるとリーダーの男は声をたてて笑った。


「お前にそんなことができるのか?」


「できる!」


隆一は一言だけ答えた。


それを聞くとリーダーの男は笑うのをやめ、考え込んでしまった。


しばらく間を置いて


「本当だろうな?」


今度は真剣な眼差しを隆一に向けてきた。


隆一はゆっくりうなずいた。


「だが俺たちが引いていくのを警官隊が黙って見過ごすと思うか?」


リーダーの男は目の前の不安を口にした。


「完全に解散するまで、警官隊は俺たちで抑えておく。」


隆一はそう言いながら、ユリがバリアで警官隊の進行を抑えているのを指差した。


リーダーの男はうなずいて


「わかった、そういうことなら解散しよう。」


そう言ったあと


「ところでお前はいったい何者だ?」


「今は言えない。」


「そうかそれなら名前ぐらいは教えろ!」


隆一は少し考えて


「調停者。」


そう名乗った。


リーダーの男はニヤリと笑い


「今日のところはそういうことにしておこう。」


言い終えると仲間のところに戻っていった。


その後、ゆっくりとではあるが群集が散り始めた。


隆一はバリアの外から回りこまれて、警官隊が進入してこないよう目を光らせた。


1時間ほどすると完全に群集は消えていた。


それを確認した隆一とユリは空に飛び上がり、ワームホールをくぐった。