飛び降り騒ぎの1件以来、隆一の通う大学にはマスコミが押し寄せていた。


魔人が日本国内にあらわれた初めてのケースである。


ほとんどの学生は魔人の印象などを答えるだけであったが、ただ1人美由紀だけは魔人の言葉を伝えた。


「いずれわかる。」


この言葉の意味に世界中が注目していた。


そんなある日の日曜日。


隆一とユリは遅めの朝食をとっていた。


「ところでリュウ、あの子どうして飛び降りたりしたの?」


ユリの何気ない質問に隆一はドキリとした。


「えっ、ああ、あれね・・・・・・・・・・」


隆一は若干、言いにくそうに


「なんか三角関係のもつれだったみたい。」


ユリはクスッと笑って


「な~るほど、それで今まで話してくれなかったんだ。」


「ち、ちがうよ、べ、別にそんなわけないじゃん、たまたま言う機会がなかっただけだから。」


必死で言い訳をする隆一である。


「はい、はい、そういうことにしておきましょう。」


「な~んか引っかかるな~その言い方。」


隆一がむくれて見せると、ユリはさらにフフッと笑った。


そんな2人の平和な時間をテレビのニュース速報が破った。


『中国ウイグル自治区で大規模なデモが発生し、警官隊が発砲。』


『多くの死傷者が出ている模様です。』


『尚、混乱は今も続いているということです。』


隆一の顔色が変わった。


ユリは心配そうな顔で


「行くつもりなの?」


「うん、ダメかい?」


「テロ組織が相手じゃないわ、相手は中国政府よ。」


「わかってるよ、だからユリは行かなくてもいい。」


「俺1人で行ってくるから。」


ユリは首を振って


「リュウがそこまで覚悟を決めてるのなら何も言わない。」


「リュウをサポートし、守るのが私の役目。」


隆一はユリを抱きしめて


「ありがとう!」


「でも別にデモの味方をしに行くわけじゃないから。」


「混乱を止めに行くだけだから安心して。」


隆一がニッコリ笑って言うと


「うん。」


ユリも安心したように微笑んだ。


その時、隆一の携帯が鳴った。


相手は美由紀だった。


隆一は普通にとらず、スピーカー状態にしてでた。


「もしもし隆一くん?」


美由紀の声が大きく室内に響く。


「美由紀ちゃん、俺ちょっと・・・・」


隆一が言いかけると


「出かけるんでしょ?」


美由紀に先を越されてしまった。


「うん、まあ、そうなんだけど・・・・・・・」


「ユリさんもいっしょね。」


「まあね。」


美由紀はそれを聞くと


「気をつけてね、あなたもユリさんも。」


隆一はユリの顔を見た。


ユリは黙ってうなずいた。


「うん、わかったありがとう。」


隆一が深く聞かず、礼を言ったので美由紀も


「明日、学校でね。」


それだけ言って電話を切った。


美由紀の真意はわからないが、今は信じるしかなかった。


「行こうか!」


隆一はあらためてユリに声をかけた。


「ええ!」


ユリも大きくうなずいた。