ユリたちがグラウンドに出ると、正面の校舎の屋上に人の姿が見えた。


どうやら女性のようだ。


もうすでに柵は乗り越え、外側のわずかなスペースに立っている。


後ろに向けてしきりに叫んでいるのは、説得するために誰かいるのだろう。


この時、美由紀はいつの間にか隆一がいなくなっていることに気づいた。


「ねぇ、隆一くんは?」


美由紀はユリに訊いたつもりだが


「トイレでも行ったんじゃないの?」


武彦がたいして気にもとめずに答えた。


「こんなときに?」


美由紀のとがめるような口調に


「そうだよね、ホント緊張感のない奴だよね、まったく。」


信也がすぐに同調した。


美由紀はユリの意見を聞きたかったが、ユリは今の会話を聞いていなかったのか屋上を見上げている。


ユリに声をかけようとしたとき、屋上で動きがあった。


説得にあたっている人物が近づいたせいか、屋上の女性はさらに移動し屋上の角の部分に立った。


少しでもバランスを崩せば真っ逆さまである。


それでも女性は懸命に何かを訴え続けていた。


頭に血が昇っているのか、身振り手振りも交えて。


バランスが崩れやすくなっているところに風がふいた。


説得にあたっていた人物が駆け寄ったが間に合わなかった。


女性は屋上から落下した。


グラウンドの人垣から悲鳴があがる。


女性が地面に激突する寸前、黒い影が横切った。


美由紀は目を見張った。


いや、美由紀だけではなかった。


その場にいる全員が驚愕して見ている。


今、テレビで連日放送しているウワサの魔人が目の前を飛んでいるのだ。


漆黒の魔人の腕には屋上から落下した女性の姿があった。


彼は人垣の中央に降りた。


皆、遠巻きにそのようすを見ているが、1人近づいていく人物があった。


美由紀である。


漆黒の魔人は女性をゆっくりとそばにあるベンチに横たえた。


そして近寄ってきた美由紀に


「医者を。」


一言呟いた。


その声は機械で作った音のようだった。


もちろん隆一の声とは似ても似つかない。


美由紀は大きな声で


「救急車を。」


と叫んだ後、声をおとして


「あなた隆一くん?」


「・・・・・・・・・」


美由紀は構わず


「ねぇ、その技術はどうやって手に入れたの?」


「・・・・・・・・・」


「いったい何が目的なの?」


漆黒の魔人は美由紀に近づき


「いずれわかる。」


それだけ言うと飛び立った。


目で追ったが、漆黒の魔人はすぐに空中に消えてしまった。


美由紀はその場所を見つめていたが、不意に肩を叩かれた。


「行っちゃったね。」


振り向くと隆一だった。


美由紀は何か言いかけたが、信也や武彦もそばにいたので口をつぐんだ。


ただ一瞬、隆一のことを‘‘キッ’’と睨みつけたが・・・・・・・