隆一は部屋に戻ると何食わぬ顔で、冷めたコーヒーを飲んだ。


「ねぇ、リュウ?」


不意にユリが声をかけてきた。


「な、何?」


隆一はちょっとドキッとしながら答えた。


「別に女の子への電話でも部屋でしてくれていいよ。」


「えっ!」


ユリの思わぬ発言に絶句してしまう隆一である。


「私はアンドロイドだから、リュウに本当に好きな人ができたときはガスト・ディバインに戻ります。」


「だから私に遠慮しないで。」


ユリにこう言われ、隆一はハンマーで頭を殴られたほどの衝撃を受けた。


隆一はユリを抱きしめた。


「ゴメン、ユリ、別にそんなんじゃないんだ。」


「俺、ぜんぜんもてなかったから、憧れてた女の子から声かけられてちょっと浮かれてたんだ。」


「謝るからさ、アンドロイドだからとか言うなよ。」


「そんなの寂しすぎるじゃん。」


「それとも俺といっしょにいるのはプログラムされたから?」


「俺個人のことなんてどうでもいいの?」


隆一のこの言葉にユリは激しく首を振った。


「ちがう!確かに新しい主といっしょにいるように命令を受けたけど、リュウを選んだのは私。」


「だからリュウとずっといっしょにいたい、でも・・・・・・・・・」


「リュウに好きな人ができたら、身を引くのがアンドロイドの役目・・・・・」


「私は作られた存在。」


それだけ言うとユリの瞳から大粒の涙がこぼれた。


隆一はどうしていいかわからず、ただ力いっぱい抱きしめた。


発達しすぎた科学はいろいろな弊害を産んだが、ユリもまたその犠牲者の1人だった。


限りなく人間に近く、その心まで理解できるのにけっして人間になることはできない存在。


隆一はこのとき誓った。


これから先、自分は死ぬまでユリだけを見つめていこうと。


ユリにアンドロイドだからという悲しい思いは2度とさせないと。


隆一はユリに顔を上げさせ、涙を拭きながら


「これからさぁ、もし俺が他の女に鼻の下伸ばしてたら、おもいっきり怒ってよ。」


「この浮気者って!」


ユリは隆一の言葉に戸惑いながら


「そんなことはできない、私は・・・・・・・・・」


隆一はユリが続きを言う前に


「これは命令だから。」


「俺が君のことだけを見つめるようにするのが新しい役目。」


「わかった?これなら拒否できないよね。」


隆一はそう言って微笑んだ。


「うん、わかった。」


ユリもやっと明るい表情に戻った。


それから両手で隆一の頬っぺたをつねった。


「何するの?」


隆一が驚いて訊くと


「さっそくだけど、さっきの電話の相手は誰?」


「どういう関係か洗いざらい言ってよね。」


ユリにつねられ隆一は悲鳴をあげた。


「言う、言うから離して!」


このとき隆一はさっきの命令を若干後悔した。