美由紀は食堂を出ると、一直線に旧校舎に向かった。
先ほどの隆一の様子から見て、何かただならぬことが起こったにちがいない。
彼はまた瞬間移動を使うはずだ。
美由紀はその現場を押さえたかった。
だが美由紀がグラウンドに出たとき、隆一が旧校舎に入って行くのが見えた。
美由紀も急いで旧校舎に入り、裏庭に駆けつけたがすでに隆一の姿はなかった。
美由紀は舌打ちしたい心境だった。
マンションに戻った隆一をユリは待ち構えていた。
「ごめんなさい、学校にいるところを。」
「いや、それよりもどういう状況?」
電話では旅客機がたいへんなことになっているとだけ聞かされたのだ。
「エンジントラブルで、空港にたどり着けないようなの。」
「どうなるの?」
「機長は進路を海に取ったみたい。」
「不時着するつもりのようだけど・・・・・」
「そんなことできるの?」
「わからない。」
ユリは首を振った。
「とにかく急ごう、俺たちで空港まで運べば問題ないんだろ。」
「ええ。」
ユリは返事をすると同時に手をかざし、ワームホールを開いた。
隆一は躊躇なく飛び込み、ユリも後に続く。
ワームホールをくぐると同時に隆一は漆黒のパワースーツを、ユリは白銀のパワースーツを装着していた。
目の前には海面すれすれを飛行している旅客機の姿があった。
商社マンの橋田は神に祈っていた。
特別信じている宗教はないが、今は祈る以外することがないのだ。
橋田は成田からロスに向かってフライト中であった。
途中、エンジントラブルのため進路が変更された。
そしてつい今しがた機長から海の上に不時着するというアナウンスを受けた。
相当強いショックはあるが、絶対にだいじょうぶだという機長の言葉を信じるしかなかった。
窓からはすぐそばに迫った海面が見えていた。
乗客全員がシートベルトをし、手すりをしっかりつかんでショックに耐える体勢を整え、そのときを待った。
しかし・・・・・・・・・
そのときはいっこうに訪れなかった。
それどころか少しずつ機体が上昇し始めているようなのだ。
橋田はわけがわからなかった。
あの状態から急にエンジンが復調したのか?
いや、そんなはずはない。
仮に復調したとしてもあそこまで高度が下がっていれば普通、海にぶつかっていたはずである。
橋田が考え続けている間も旅客機は順調に飛行を続け、ついに目的の空港に到着した。
着陸もスムーズに行なわれた。
機体が完全に停止し、ほっと一息ついたとき、橋田は不時着しなかった理由を知った。
空港のライトに一瞬だが、漆黒の魔人と白銀の魔人が浮かび上がり、飛び去ったからだ。