‘‘彼女’’は1時限目の講義の前に、昨日忘れた筆箱を旧校舎の教室に取りに来ていた。


筆箱は昨日座った席の上にそのまま置いてあった。


彼女はそれを取り、かばんに入れると教室を後にしようとした。


そのとき窓から見えている裏庭に突然、人が現れた。


彼女はとっさに机の影に隠れた。


現れた青年は周囲を見渡し誰もいないことを確認したあと、足早に去っていった。


机の影から立ち上がった彼女は急いでそのあとを追った。


彼女は口から心臓が飛び出しそうなほどドキドキしていた。


先ほど見たのは目の錯覚などではない。


あの青年はあきらかに瞬間移動してきた。


この地球上で瞬間移動ができるのは、例の魔人たちだけである。


彼女は物理学者を志す者として、あの魔人たちにただならぬ関心があった。


いったいどのような原理であのようなことができるのか?


ぜひ解明してみたいと思っていた。


そして思わぬところで、そのチャンスが転がり込んできたのだ。


彼女は青年に気づかれないよう後をつけた。


青年は別の校舎の教室に入って行った。


彼女は目立たぬよう同じ教室に入った。


彼女が受けるべき講義ではないが、今は自分の受ける講義などどうでもよかった。


とにかくあの青年の正体を突き止めるのが先決である。


そう考え少し離れた席から、青年を見つめていた。




昼休み。


隆一は信也と武彦と共に食堂で昼ごはんを食べていた。


もっとも食堂のメニューを食べているのは信也と武彦だけで、隆一はユリの手作り弁当である。


「いいよなぁ~今日もユリちゃんの手作り弁当かよ。」


信也は毎日飽きずに同じセリフを繰り返していた。


隆一も慣れてしまった。


信也が言うと武彦も後に続くのだが、今日は何もしゃべらない。


隆一は不思議に思って見ると武彦は食堂の入り口を凝視していた。


何にそんな見とれているのかと、視線を向けるとそこには去年のミス・キャンパス、鳥嶋美由紀がいた。


彼女も2年生だが、隆一たちとはちがい現役で入学したので、年齢は1つ下である。


女の子ながら物理学者になるのが夢だそうだ。


容姿がいいだけでなく、頭もいい彼女は全男子の憧れである。


隆一もユリが現れるまでは美由紀のファンであった。


もちろん今はユリ一筋であるが・・・・・・・・


美由紀は誰かを探しているのか入り口付近でキョロキョロしていた。


が、目的の人物を見つけたのか歩き出した。


近くに友達でもいるんだろう、そう思っていた隆一たちであったが、美由紀が立ち止まったのは隆一たちが座っているテーブルの前だった。


「あの~ごいっしょしてもよろしいですか?」


「へっ!」


隆一たち3人は固まってしまった。