田口はまったく状況が把握できなかった。
仕事柄、危険な目に遭うことも少なくない。
そのため少々のことではうろたえたりしないが、今回ばかりはちがっていた。
今、目の前で起こっていること全てが、人知を超えた出来事なのだ。
ただただ呆然とするしかなかった。
その間に外の戦闘の音が止んだ。
攻撃を仕掛けたほうが撤退したのか?
そう思った矢先、建物のあちこちを撃ち抜くような音が聞こえ、兵士たちの悲鳴が響いた。
見捨てられた?
とも考えたが、それではこの白銀の鎧はいったいなんなのだ。
田口が疑問の目で見ると
白銀の鎧は再び声を発した。
「私のそばにいてください。」
田口たちは言われるままに行動した。
とりあえず、この白銀の鎧が自分たちを助けるというのはウソではないらしい。
悲鳴が聞こえ始めると、何人かの兵士がこの部屋の入り口に来たが、そのたびに白銀の鎧の見えない攻撃に弾き飛ばされ意識を失った。
いや、弾き飛ばされる前に外からの攻撃で肩や太ももを撃ちぬかれ、苦痛にのた打ち回る者もいた。
そのうちに建物を攻撃する音が止み、悲鳴は呻くような声に変わっていった。
しばらくすると部屋の入り口に驚くべきものが現れた。
それは部屋の中にいる白銀の鎧と色違いの漆黒の鎧であった。
どうやらこの漆黒の鎧が攻撃を仕掛けていたようだ。
「シルバー、無事か?」
「ええ、それよりブラックのほうこそだいじょうぶだった?」
「ああ、ぜんぜん問題なかったよ。」
2体の鎧は互いの無事を確認しあうような会話を日本語で交わした。
今の会話で田口はこの2体についていくつかわかった。
まず2体はロボットなどではなく、中に人間が入っているようだ。
言葉遣いからするとシルバーの方が女性で、ブラックの方が男性だと推測される。
そしてお互いの会話で日本語を使ったところをみるとどうやら日本人であるらしい。
田口がそんなことを考えていると
「それじゃ、安全なところまでお送りします。」
シルバーが話しかけてきた。
ブラックは窓際に近寄り、手をかざした。
すると大きな音と共に壁が吹き飛んだ。
「じゃあ、こっちに。」
ブラックはそのまま先頭に立って歩いて行った。
田口たちも後に続く。
最後尾にシルバーがつく。
壁の外は裏庭である。
何台もの車両が止めてあった。
シルバーの指示で、田口たちはそのうちの一台に乗り込み現地スタッフが運転した。
ブラックはその間に他の車両を破壊している。
おそらく「神の雷」のメンバーが逃げ出さないための処置であろう。
ドゥールをはじめ他の重要メンバーもまだこのアジトにいるはずだ。
これで全世界を震撼させたテロ組織「神の雷」も最後だろう。
田口はそう思うとあっけない気がした。