フリージャーナリストの田口良三は激しく後悔していた。


田口は長年、中東情勢を取材していたが、最近は武装テロ組織「神の雷」を追っていた。


いくつものテロ事件に関与し、外国人を人質に取り身代金を奪うようなことまでやっている。


首領のドゥールという男が狡猾で、あちこちにダミーのアジトを作り未だに本拠地が特定されていなかった。


田口は3日前、カメラマンと助手それに現地スタッフと共に以前ダミーアジトがあった町の周辺で取材していた。


そのとき突然、武装集団に身柄を拘束されてしまった。


田口はその武装集団がすぐに「神の雷」であるとわかった。


彼らは以前、調べつくされたこの町に再び本拠地を置いていたのだ。


田口は自分の判断の甘さを呪った。


だが絶望はしていない。


「神の雷」が外国人を人質にとる場合、身代金目的なのだ。


身代金が支払われたケースでは、ほとんど無事に開放されている。


現にアジトに連れてこられて、すぐビデオ撮影が行なわれた。


おそらく拘束した証拠として送りつけるのであろう。


あとは日本政府の対応しだいだ。


今までの経験からいって、日本政府は人命を第一に考えるので望みは充分にある。


田口は他のメンバーにもそのことを伝え、絶望しないよう励ました。


人質としての待遇は悪いものではなかった。


全員が一室に監禁されているが、部屋の中では自由に動くことができた。


食事も1日に2回出された。


身代金をせしめるまでは丁寧に扱ってくれるようだ。


おそらく交渉が始まるのは早くても一週間後であろうと田口は考えていた。


もちろんその頃には、ドゥールを初めとする主だったメンバーは他のアジトに移動しているだろう。


自分にはどうすることもできないが。


へたに取材の申し込みなどしたら、命の保障はない。


とにかく今はおとなしく待つしかないのだ。


田口がそう覚悟を決めたとき、銃声が聞こえた。


鉄格子がはめ込まれているので、窓を開けることが許されていた。


銃声は一発だけではなかった。


何発も鳴り響いた。


その後、現地語で


「武装解除して人質を解放せよ。」


と言う声が聞こえた。


田口は戸惑った。


いったいどこの組織が来たのだ?


日本政府ではない。


日本政府がいきなり特殊部隊を送りこむはずはない。


第一、時間的にも誘拐された第一報が入ったばかりのころである。


ではアメリカが勇み足をしたのか?


それも考えにくかった。


とにかく困るのだ、へたをすると盾にされかねない。


田口が考えを巡らせている間に自動小銃の乱射が始まった。


さらに大きな爆発音も聞こえてきた。


いよいよ本格的な戦闘が始まったようだ。


そのとき、部屋の扉が開けられようとしていた。


人質として使われるのかもしれない。


田口がそう考えたとき突然、目の前に白銀の鎧が現れた。


一同、目が点になった。


一方、扉を開けた兵士も驚き、銃を構えた。


兵士が銃を撃つ前に白銀の鎧が片手をあげると兵士は吹き飛ばされた。


壁に打ちつけられ、意識を失ったようだ。


白銀の鎧はゆっくりと振り向き


「助けに来ました、安心してください。」


と日本語で話した。