中東のとある町。
武装テロ組織「神の雷」の長、ドゥールは今回の成果に満足していた。
偵察に出ていた部隊から、外国メディアのスタッフが近くにいるという情報が入った。
ドゥールは迷うことなく、彼らを拉致するよう命じた。
拉致された者たちの情報を聞いてドゥールは小躍りしたくなった。
5人の内、2人は現地スタッフであったが、残り3人は日本人であった。
世界有数の金持ちの国で、世界有数の弱腰の国だ。
彼らは脅せばいくらでも身代金を支払ってくれる。
まさに金のなる木を拾った気分だった。
もうすでに拉致の事実と証拠の映像も送りつけた。
後は気長に交渉して身代金を巻き上げるだけだ。
だが油断は禁物である。
アメリカのように特殊部隊を送りこむようなことはしないはずだが、万が一ということがある。
アジト周辺の警備は厳重にさせた。
そしてドゥール自身も見張り台に登り、周辺を警戒した。
そのとき不思議な物体を目撃した。
その物体は突然、空中に現れた。
漆黒で人型をしているが空中に浮かんでいる。
昼間でなければ発見できなかったところだ。
ドゥールは風船だと思った。
となりにいる部下にライフルで狙撃させた。
だが弾丸は当たらなかったようだ。
部下は何度も狙撃したが、漆黒の物体は微動だにしない。
(何なのだ、あれは。)
ドゥールは気味が悪くなった。
そのとき、漆黒の物体が声を発した。
「武装解除して人質を解放せよ。」
(!!)
ドゥールは本能的に感じた。
あれは敵だと。
部下に命じて一斉攻撃をかけさせた。
漆黒の物体に向け、自動小銃が方々から発射された。
が、漆黒の物体はあいかわらず微動だにしていない。
ドゥールはアジトにあるありとあらゆる重火器を総動員して攻撃をかけさせた。
その中には対戦車用のロケットランチャーなども含まれていた。
次々に重火器が命中し、漆黒の物体は爆炎に包まれた。
これだけの攻撃を加えれば、たとえ重装甲の戦車でも跡形もない。
だが・・・・・・・・・
爆炎と煙がはれると漆黒の物体は先ほどとまったく変化はなかった。
「あ、悪魔。」
となりにいる部下が呟いた。
いや、となりの部下だけではない、アジトのあちこちから恐れおののく声が聞こえてきた。
ドゥールも恐れていたが、それを部下に悟られるわけにはいかない。
部下を叱咤激励し、もう1度総攻撃をかけさせようとしたとき、漆黒の悪魔はその手をこちらに向けた。
と同時にその指先から‘‘何か’’が撃ち出された。
となりにいる部下の右肩が撃ち抜かれた。
ドゥールはあわててしゃがみこんだ。
しかし結果は同じであった。
悪魔の撃ち出した‘‘何か’’は鉄板を貼りつけたコンクリート壁をあっさり貫通し、ドゥールの右肩も撃ち抜いた。
悪魔にとってこの建物の壁など、あってないようなものなのだろう。
アジトのあちこちから悲鳴があがる。
ドゥールは今日が「神の雷」の終焉であることを思い知った。