今日は食欲がなかった。冷蔵庫にはいくらか食材があるが、火を使う気にもなれず、そのままにしている。これは前に撮ったご飯。
家を出てからというもの、家族と会ってもいないし、連絡も取っていない。電話番号も住所も知っているのに、指が動いたことは一度もなかった。私がいなくても、あの家の食卓は変わらず続いているのだろう。砂糖の匂いに包まれて、父と母と兄が笑いながら皿を囲んでいる姿が、容易に想像できる。
時折、不意にあの日の食事を思い出すことがある。秋刀魚の焦げた甘さ、煮物に沈むざらついた砂糖、卵の黄身に溶け込む白い粒。思い出すたび胸が詰まるのに、記憶は決して薄れない。
私はもう戻ることはないと分かっているのに、食欲を失った夜ほど、あの食卓の景色がよみがえる。
