もし、自分が死んでしまったら。
お葬式を想像してみる。
お葬式に参列してくれた人はなんと言うだろう。
「あいつはいいやつやった。」
「以前こんなことをしてもらった。」
「あいつにはいつも助けられていた。」
「今まで本当にありがとう。」
私ならそう言ってもらいたい。
4月19日から21日まで研修の一環として現場の先輩に同行して仕事の雰囲気やイメージをつかむ機会が与えられた。
私は横浜支店に配属され、同期と一緒にびくびくしながら出社した。
すると、予想に反して先輩方はとても温かく私たちを迎えてくれた。
3日間を通して「こうなりたい」という目標や「そのためにどうするか」という方向性を自分の中で見つけられた。
本当に人間として社会人として見習いたい、まねしたい先輩がたくさんいらっしゃた。
その1人。
私より一年上の先輩がいた。
朝早く出社したのはいいものの何をしていいのかわからない。
お手洗いもどこにあるのかわからない。
私は同期に「トイレに行きたくなったらどうしたらいいんやろね。」と小さな声で言った。
するとそれが聞こえたらしく、「トイレはこっちやで。」と言ってすぐに案内してくださった。
そんな小さな声も聞き逃さない。
食事の時、私が遠距離恋愛が不安だという話をすると、「俺は研修も乗り越えたし、その彼女と今も付き合ってるから大丈夫やで。」と励ましてくださった。
それから研修の詳しい話も聞かせてくださった。
そのその先輩は研修で組リーダーをしていらっしゃったらしい。
組リーダーは20人から30人の組をまとめる大変な仕事。
リーダーを任される程研修の時から信頼があり、しっかりしていた人やったんや。
共通の知り合いがいることで縁も感じた。
横浜支店全体の歓迎会の幹事もしてくださった。
帰りにはみんなを宿泊していたホテルの前まで送ってくださった。
その先輩に同行した同期の報告書にはびっしりとその子の良い点が書かれていた。
四半期で2009年度入社でトップの売り上げを達成していらっしゃった。
横浜から帰るとき販促品のボールペンが欲しいと言うと新しいものを一緒に探してくださり、結局見つからず諦めているとデスクにあったものを渡してくださった。
横浜から帰り、元の研修施設に戻ると隣の部屋で2009年度入社の研修がされていた。
挨拶に行くとほんの少しの時間だったけれどお話してくださった。
全てささいなエピソードかもしれないけれど、後輩の私にとってはとっても嬉しくて
気遣いや気配りができる、先輩からも可愛がられるその先輩は私の目標とする先輩の1人になった。
そして、もっといろいろなお話がしたい。希望配属地は横浜にしようと決めた。
それから、ゴールデンウィークに入り、5月9日久しぶりに出社するとトレーナーから2009年度入社の先輩が帰省中に川に流されて行方不明になっていることを聞かされた。
横浜支店の先輩だった。
理解できなかった。
夢だと思った。
どうして。
まともに研修が受けられない。
先輩のことが頭から離れない。
ずっと祈った。
先輩が助かるなら自分の寿命を削ってもいいから助かって欲しい。
横浜支店で一緒に仕事をするんや。
ここまで助かって欲しいと思ったのは初めてだった。
何でも良いから、何でもするから助けてほしい。
「藁にもすがる思い」とはこのことなんや。
日々か経つたび希望も薄れていき、1人になると涙がこみ上げる。
3日や4日しか接していないのに。
ご家族や彼女さんのことを思うと想像を絶する。
その先輩でなければここまで思っていないだろう。
知らない先輩だったら。違う横浜支店の人だったら。
私はその先輩のことが好きになっていたのかもしれない。
結局先輩は13日遺体で発見された。
ネットでそのニュースを毎日確認していると
「川にながされるのは夏の風物詩だ」とか
「馬鹿なやつだ。遺族がかわいそうだ」とか
そういったコメントを目にした。
分かったようなことを言うな。
遺族がかわいそう?
先輩を悪く言われることの方が辛い。
先輩はもしかしたら無茶なことをしたのかもしれない。
状況が分からないから。
でも先輩は接して馬鹿ではない。
心優しくて、気配りができて、頼れて、周りの人から愛される人だった。
本当に大きな大きな影響を与えてくださった。
だから先輩を悪く言ってほしくない。
私は生命関連企業に就職した。
内定をもらえたから。
大手やし給料がいいから。
周りから勧められたから。
どうしてもこの仕事がいいから就いたのではない。
だから理想も描けなかった。
でも、気付いた。
私が先輩に助かって欲しいと強く祈ったように、患者さん一人一人の周りには患者さんを思うご家族やご友人がいる。
そんな人に接する、助けることが出来る仕事に就いたんや。
言葉ではわかっていても本当の意味で解っていなかった。
それを先輩は気付かせてくださった。
今でも先輩の顔や笑い声や仕草を思い出す。
本当に笑顔が素敵な人だった。
思い出すと胸が苦しくなってまた涙が出る。
でも私はずっと先輩を忘れずにいつも心において仕事をしていこうと思う。
先輩からもらったボールペンを使い続けて、先輩の名刺をずっと私の名刺入れに入れておく。
そうやって私は1人でも多くの患者さんを救う手助けをしていく。
私に仕事をする意味を与えてくださった先輩に、できればもう一度会ってお礼が言いたい。
これから私は先輩の分まで私が働いていきます。
どうか安らかにお眠りください。
本当にありがとうございました。

気が合ってないんやな