この彼は笑った時に60歳とは思えないような
笑顔を見せる。それが動物でいうラッコのよ
うな愛らしさである。はにかむ笑顔に少年時
代の面影を見ているようだ。その笑顔に癒さ
れる。しかし、経営者としての一面を見せる
ときは逞しい男の顔になる。そこがたまらな
い。
しかしこの恋には悲劇の一面も備えている。
相手は結婚と子供を望んで、結婚相談所に登
録していて、まだ解約していない点である。
後継問題なのかも知れないが、還暦になって
も諦めていないようだ。確かに肉体全体が若く
て50代前半といっても通じる若さである。
一方私は結婚願望がない。増して子供は苦手
だ。これには育った環境が多大に影響している
がそれについては割愛する。まだ2回しかお会
いしていない状況下であるが、それぞれに思い
悩みが芽生えてしまった。恋心と現実問題であ
る。相手もこのところ、食欲なく眠れないとい
う。これが「恋の病」というやつか。私は食欲
はあるが、元気がない。ため息が多くなった。
俯瞰的にこの状況を見たら、離れる方がいいの
ではないか。仮に共に暮らしても10年後は70歳。
前期高齢者の仲間入りとなれば、問題も増える。
同居の母親の介護問題ものしかかるのではないか。
恋愛というのは、始まる前が最も盛り上がる。
幻想が通じるときだからだ。しかし直ぐ後に
現実が押し寄せる。老いらくの恋に分類される
恋愛に足を踏み入れた私の物語は続いている。