●2016年8月10日水曜日 午後7時頃

北本児童館から外に出ると、芝生の真ん中あたりでお母さんと子供達5〜7人くらいが輪になっていた。彼らは一斉に私を見たが、何も言わなかった。知り合いではないので私も何も言えず、駐車場に向かった。

車の鍵を開けようとした時、背後から名前を呼ばれた。振り返ると、土下座館長と保育士の杉田さんが走って追いかけてきた。土下座館長は芝生じゅうに響き渡る大声で叫んだ。

『雅彩さーん! 忘れ物ですよー! お菓子ですー!』

私は血の気が引いた。芝生には5〜7人の親子連れがいた。駐車場には5〜6人の通行人がいた。小澤館長は先程の狂乱と醜態が嘘のように、元気でハツラツとしていた。笑顔を浮かべ、ハキハキとしゃべっている。

逃げる時間はなかった。あっという間に追いつかれた。

小澤館長『雅彩さん! お菓子をどうぞ! せっかく買ってきたんだから食べてください!』
私『要らないって言ってるでしょ! 追いかけてこないでよ!』
小澤館長『そんなこと言わずに・・・・・さあ!』

私が受け取らないと見ると、小澤館長は2歳の子供の手にムリヤリ紙袋を握らせた。子供が驚いて硬直している。

私『子供に何をやってるのよ! あんた頭おかしいよ!』

私が小澤館長を子供から追い払うと、小澤館長はコージーコーナーの紙袋を車の屋根に乗せて、クルッと方向転換し、一目散に走り出した。イイ歳した大人2人が、全速力で逃げていく様は、まるで泥棒のようだった。

私『いらないって言ってるでしょー!』

私は紙袋を小澤館長に向けて、力いっぱいぶん投げた。小澤館長は立ち止まり、紙袋をひろって戻ってきた。

小澤館長『投げなくたっていいじゃないですか、もったいない』
私『そういう問題じゃない! あんた狂ってる! 2歳児の手にムリヤリ菓子折りを握らせるな!』
小澤館長『まあまあ、そう怒らずに早く車に乗ってくださいよ』
私『私が車のドアを開けたら、あなたは菓子折りを放り込んで逃げるでしょ!』
小澤館長『はい!』

信じられなかった。小澤館長は満面の笑顔で『はい!』と大声で言った。

この女、狂ってる。私はゾッとし、子供の手を引いて逃げ出した。

小澤館長『どこ行くんですか!?』
私『あんたから逃げるのよ、気持ち悪い!』
杉田さん『・・・・・分かりました。小澤は連れて帰るので、どうぞ車に乗ってください』

それまで傍観していた杉田さんが、初めて口を開いた。私は『あなた遅いよっ! さっさとそのキチガイを連れて帰って!』と言った。

保育士の杉田さんはへらっと笑った。『気をつけて帰ってくださいね。お子様を乗せて運転するんですから、あまり興奮なさると事故りますよ』と言った。

私『そう思うのなら、最初から土下座館長を来させるな! さんざんやりたい放題やらせておいて、何が気をつけてだ。白々しい!』

私は本気で怒っていた。北本市役所の男性職員が、不審な顔をしながら横を通り過ぎて行った。
芝生の親子連れの方々からは、ずっと注目を浴びたままだ。