冬眠


 通常、経営者の多くは、企業を常に稼働しておかなければならないと考えている人が大多数だと思います。

 なぜなら、事業が回ることで、取引先や従業員などの利害関係者の生活の糧となるお金が循環するからです。


 以前、私の顧問先様に「冬眠」をするお客様がおりました。

 「冬眠」という言葉は、季節的な低温に対して、動物が摂食や運動を中止して代謝活動を著しく低下させた状態で冬季を過ごすという意味です。

 これを企業に例えれば、不景気や構造的に不況のある業種を営んでいる場合に、企業が企業活動を休止し、生活費だけを切り崩して、不況の時期を過ごすということです。


 私は、経営者にとって、とても重要なことだと思います。

 この世の中に潰れない企業などありません。どんな大きな企業もリーマンブラザーズしかり、日本では山一証券しかりでした。また、同族経営者が乗っ取られて、経営権が吸収されたケースも該当するかもしれません。


 経営者が不況等によって、事業を続ければ、今まで蓄えた財産をいとも簡単に失うことになります。

 なぜなら、運転資金の補填は「ゼイタク」「浪費」などと比べても、多大な出費が伴います。

 利益の産まない従業員の雇用や付加価値の生まない在庫の保有は、著しく資金を流出させていきます。そして、事業惜しさに、経営者自身の財産まで注ぎ込んでしまうケースが多いです。

 従業員も生活ありますし、人間としても情がありますから、企業を辞めさせるに、勇気があります。

 在庫の保有も、仕入先が取引を多く仕入れれば安く取引してくれるかもしれない、売り先がもっと買ってくれるかもしれないと考えてしまい。結果、在庫を多く保有してしまう状況に陥るのです。


 このような状況になりそうだったら、事業を「冬眠」させることを考えることも重要です。利害関係者に迷惑がかかると意地を張らずに、規模の縮小・停止・事業の転換(商売替え)を考えることが重要です。

 不動産があれば、その不動産を貸せばいいのだし、経営者に能力があれば、外に働きに行けばいいのです。

外に働きに行けば、給料はもらえるのだから、少なくとも「赤字」はありません。

 利害関係者である従業員や取引先に迷惑をかけないことも重要ですが、それよりも、かけがいの無い自分の家族を不幸にしてはいけません。

 私達税理士も、事業が無くなったり縮小するのだから、結果、仕事が無くなるか顧問料が減ります。

 しかし、顧客のことを思えば、顧問料欲しさに無理な事業継続などはさせることはできません。

 顧問先も、長年続いた(親などから引き継いだ場合も多い)事業ですから、止めることなど考えてもいない場合も多いです。事業を止めることは、家のプライドにも関わる問題です。

 したがって、そのような話をすれば、気分を害されることにもなりかねません。


 私も、本音でいえば、勇気を持って、いち早く、このようなことを真摯に説明して、顧問先様ために、喧嘩をしてもいいから、本音でアドバイスをしていきたいと思っています。そのような話から、互いにより良い経営改善がなされる場合も多いです。

 しかし、そのような経営改善の術が無く、いい状態で「冬眠」するには、経営者自身が決断をして、頑張って事業の幕を引かなければなりません。ですから、こちらとしては、その事業の状況を把握し、ころ合いを見定めて、そのような話を切りださねければならないのです。



二人三脚


 私が税理士をしていて、大事だと思うのは、顧客との「二人三脚」感です。

 これは、税理士に限らず、他人の代理を行う弁護士などの他の士業にも言えることだと思います。

 弁護士で例えれば、法律要件に事実を当て嵌め、事実認定をして、法律効果を出すという行為に終始する余り、法律に関係の無い事実に対し、聞く耳を持たなくなりやすいケースなどだと思います。

 税理士の場合には、弁護士と異なり、毎年顧問先から仕事を受けるので、「ツーカー」の度合いが高まりやすいです。そのまま、長期間に亘り、納税者が正確な理解をしないまま、申告が積み重ねられてしまう場合もあるのです。その結果、「蓋を開ければ玉手箱」といった場面に遭遇しかねないのです。


 顧問先にとって、長期間に顧問になっている税理士に対して、「ツーカー」の度合いが高いので、会社の状況を深く説明しないでも、自社のことを理解していると思いがちです。

 顧問先様は、説明の労力が少なければ、数値と向き合う負担が少ないので、ラクな状況です。

 こちら側も、顧問先の状況を理解することが少なくなるので、ラクな仕事になります。

 長年、同じ企業に関与させていただければ、ある程度、「感」が働くので、それ相応のことは理解ができますが、顧問先と毎日一緒にいるわけもありませんし、経営者が「どのように事業を進めようとしているか」といった、その心の底まで判るわけはありません。加えて、日々の変化などの外的要因もあります。


 顧問先には、「ウザイ」と思われてしまうかもしれませんが、ある程度、顧問先の変化に「ある程度」予測できるぐらいの状況把握はしなければなりません。そうしなければ、大きな落とし穴にハマるかもしれません。

 お医者さんの例であると、万年風邪の患者が、たまたま軽い結核であったを発見したとかいうケースに類似するのかもしれません。場合によっては、軽い結核が重度の肺炎を引き起こし、死に当たるかもしれません。

 私の業種である税理士業務の場合にも、ある程度の「感」に基づいた判断・経験則を重視し過ぎて申告書を作成し、その結果、その申告書が要因となって、顧問先に致命傷を与えかねない場合もゼロとは言い切れません。


 だからこそ、税理士は顧客との「二人三脚」感を大事にして、顧客と適切な関係を維持し続け、仕事を進めていかねければならないと「常々」思っています。

税務申告書は人生の履歴書


 私は税理士として、様々な顧問先に関与させていただいております。

 その中で、税務申告書は納税者の人生を映し出す履歴書でだと思うのです。


 ただ、毎年毎年様々な顧問先様のお仕事を頂いて、仕事を流すのではなく1年・1期間の申告書が、何年も積み重なって、顧問先様の事業の流れが浮かび出てきます。

 決算書の数値も、ただ1年・1期間で浮いているものではありません。

 長年の事業の積み重ねで作られた数値なのです。

 単に売上と言っても、たまたま売れたというわけではなく、長年の企業努力による信用、商品力、企画力・運・時代などが相互に起因して、作りだされたものなのです。他の数値も同様に積み重ねられた意味のある「数値」です。

 だから、私は、プロとして、お客様の人生を長いスパンで関与させていただき、意味のある「数値」を作ることにお手伝いさせていただき、結果、満足していただけるようなお仕事するように心がけております。


 当然、申告書を作成するに当たり、様々な会計取引を1つずつ積み重ねて、決算書を作っていきます。

 税務決算書を作成するに当たり、納税者には『申告』ですから、ある程度の裁量権が与えられます。

 その裁量権の範囲の中で、顧問先様が「どのような事業の見通しを立てているか」「そのような人生設計を立てているか」などの諸事情をお聞きして、現時点で、顧問先様と税理士が最も適した方向性を理解し合って、税務申告書を作成することが重要なのです。

 例えば、、単年の無理な節税や利益の創出は、長期的に見れば、無理が祟ります。マラソンとインターバルの関係と同じようなものです。インターバルばかり行うと、当初はトレーニングの効果があるかもしれませんが、将来はケガに苦しみます。税務申告書を見れば、過ぎた納税や事業資金の借り入れは、「傷跡」として残っているものです。


 いずれにせよ、企業も人生と同じで、山あり谷ありです。だからこそ、そのような状況に合わせて、適した税務申告書を処方しなければならないのです。

 だからこそ、私は税理士として、顧問先様のために、「履歴書」である「申告書」で人生を失敗したと言われないために、日々、相互に理解し合い、顧問先様の人生の状況の変化に適するような仕事をすすめています。