地方自治体から高齢者のためのインフルエンザ予防注射の案内が送付されてきたので、
現在の同予防注射の効果等をしらべました。
ーーー
https://www.pieronline.jp/content/article/0919-1011/33110/1118
インフェクションコントロール
【最新情報編】 <1>ブラッシュアップ!
新型コロナウイルス・インフルエンザ・ノロウイルスの最新情報
著者: 矢野邦夫
出典: インフェクションコントロール Volume 33, Issue 11, 1118 - 1122 (2024)
出版社: メディカ出版
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が新興感染症であったときには集中的な対策が必要であった.
しかし,現在(2024年5月)はウイルスの病原性は低下し,ワクチンや抗ウイルス薬が利用できるようになったため,集中的な感染対策は必要なくなった.
経鼻弱毒生インフルエンザワクチンが利用できるようになった.
本ワクチンは不活化ワクチンと異なり,接種前後に投与された抗ウイルス薬によって効果が減弱する.
また,不活化ワクチンは妊婦や免疫不全者に接種できるが,
経鼻弱毒生インフルエンザワクチンは接種できない.
ノロウイルス感染症では無症候性感染者がいる.
そのような人々に下痢や嘔吐がみられる場合,その原因が別のものであっても,
ノロウイルス抗原検査が陽性ならば,ノロウイルス感染症と誤って判断されてしまう.
無症候性感染者はウイルスを便中に排出するので,院内や家庭内感染の原因となりうる.
--- abs.の冒頭部だけ、本文は有料なので。。。
月刊地域医学 Vol.37 No.1 2023
高宮光、「インフルエンザ」
現状把握の概論としては優れていますので紹介します。
ーーー
抗原変異
ウイルスはヒトの細胞に入り込んで増殖していくが,その際にコピーミスを起こすことがある.DNAウイルスには修復機能を持ち合わせているが,RNAウイルスにはその機能がないため,突然変異を起こしやすい.
その突然変異は哺乳類の100万倍の確率で起こると言われている.
インフルエンザウイルスは突然変異により,HAとNAの抗原性が少しずつ変化し,これを抗原連続変異(抗原ドリフト)と言う.
このため毎年ワクチンの抗原を調整する必要がある.
時に1細胞に異なる2種類以上のウイルスが感染し,
各々の遺伝子が混ざり合い新たなウイルスが作られることがある.
これを遺伝子再集合と言い,これまでに流行していたウイルスとは異なるHAやNAを持つ新型ウイルスが出現し,これを抗原不連続変異(抗原シフト)と言う.
病状
感染性は発症1日前からで,発症24~48時間が最高で,その後急激に低下する.
解熱した後1日程度平熱になった後に再び発熱する2峰性発熱を起こすことがある.
特に小児のB型インフルエンザの時に多くみられる.
原因はまだ解明されていないが,サイトカインの反応によるものではないかと考えられている.
小児は熱性けいれんを起こしやすく,脳症を合併することもある。
ーー
抗インフルエンザ薬を服用しても脳症の発症を抑えることはまずできない.
脳症は脳の血管内皮細胞の透過性亢進により脳浮腫が広範囲に起こり,
サイトカインの異常反応(サイトカインストーム)によるところが大きいとされている.
またインフルエンザ脳症はアジア人の男児に多くみられ,
遺伝的背景が発症に関わっているとされている.
成人例は少なく,小児の1/20~1/60の割合だが,致死率は65歳以上で20%と高い.
免疫力が低下している高齢者や基礎疾患を持っている者は肺炎や基礎疾患の悪化により死亡することもある.
肺炎はウイルス性肺炎ではなく,二次感染による細菌性肺炎がほとんどで,肺炎球菌が過半数を占める.
ワクチン
ワクチン
HAでインフルエンザウイルスが咽頭や気管支の細胞のレセプターに感染を引き起こす.
HAの作用を抑制するのがHI抗体で,感染防御の主体である.
このHI抗体を人工的に作るのがHA蛋白を主成分とする不活化インフルエンザ
HAワクチンである.
2015年からはB型が1価加わり,4価ワクチンに変更となった.
現行のワクチン製造には卵分離株を用いるため,卵での増殖過程で抗原部位などにアミノ酸変異が生じ,ワクチン元株から抗原性が変化(卵馴化)し,
ワクチンの効果が減弱してしまう可能性がある.
ーー
我々の調査件数はCDCよりも多いが,CDCはシーズン中に最新の有効率を公表し,高い場合は接種の勧奨を促し,低い場合は抗インフルエンザ薬の予防投薬を促すなど,有効率の調査を有効活用している.
我々のこれまでの調査の結果では,H1N1型に対する有効率は40~60%,
H3N2型に対しては30~40%,
B型に対しては30~40%である.
有効率を年代別に検討すると,ワクチンの接種が半量にもかかわらず,
1~3歳が毎シーズン最も高い.
ただし,1歳未満の接種は有効とは言えず,乳児を守るためには両親の接種を奨めるべきである.
なお,我々の2014/2015年~2018/2019年の調査ではわが国の接種率は44.8~48.6%(平均接種率は45.4%)で,
米国の2012/2013年~2016/2017年の平均接種率の43%とあまり変わらない.
上記の有効率は発症予防効果であるが,高齢者における入院回避の有効率は50~60%で,死亡回避の有効率は80%と報告されている。
ーーー
治療薬
ウイルスの増殖を抑制する薬剤なので,感染初期に効果を発揮する.
それには内服薬のオセルタミビル(タミフルⓇ),
吸入薬のザナミビル(リレンザⓇ)と
ラニナミビル(イナビルⓇ),
そして点滴静注薬のぺラミピル(ラピアクタⓇ)がある。
2017/2018年ではイナビルが47%,タミフルが29%で,
2018/2019年では後述のゾフルーザが47%,タミフルが29%,イナビルが18%だった。
各薬剤の特徴を捉えておく必要がある.タミフルは内服のため服用が簡便で,吸入ができない乳幼児に適している.
2017年3月より新生児から使用できるようになった.
ただし5日間連続で投与しなければならず,怠薬の可能性もあり,耐性の懸念
もある.
リレンザは吸入のため,服用にコツが必要だが,耐性ができにくい.
B型インフルエンザに効果が高いという報告もある.
イナビルも吸入だが,単回投与のため怠薬を防ぐことができるが,
失敗のリスクもある.
ラピアクタは点滴静注なので経口困難患者や入院患者に適している.
バロキサビル(ゾフルーザⓇ)は,感染した宿主細胞内で新たなインフルエンザウイルスを作るために必要な酵素であるキャップ依存性エンドヌクレアーゼを阻害することにより,
インフルエンザウイルスの増殖を抑える.既存薬が細胞内で増殖したウイルスが細胞外に拡がるのを防ぐのに対して,ゾフルーザは細胞内でウイルス自体の増殖を抑える仕組み。。
国際共同第Ⅲ相試験ではゾフルーザによるインフルエンザウイルスの力価の減少は投与2日目でプラセボ群の1,820倍で,タミフル投与群の72倍だった.
ゾフルーザは急激にウイルスを減少させる効果が絶大で,この働きこそ抗ウイルス薬にとって最も重要だと思う.
現時点では日本感染症学会や日本小児科学会は12歳未満に対しては積極的な投
与は推奨していない.
しかし,重症例にノイラミニダーゼ阻害薬との併用や新型インフルエンザの場合の使用なども今後ありうるかもしれない.
ここ2シーズン,インフルエンザが流行しなかったためゾフルーザのサーベイランスは中断されている。
====== インフル抗原のdesignの方向性
The 39th Annual Conference of the Japanese Society for Artificial Intelligence, 2025
in silico ツールを駆使したワクチン抗原デザインの開発
Development of Vaccine Antigen Design Using In Silico Tools
伊苅久裕 河野誠也 吉野幸一郎 渡辺登喜子 田上俊輔 吉岡靖雄 川上英良
IEDBデータベースにより、抗原配列のみを用いて、
Tcell epitope, 直鎖状 Bcell epitope ともに配列データのみから一定の精度で予測することができる。
そのエピトープの毒性やアレルギー性を評価するツールも充実している。
そのため、それらのツールを駆使して、エピトープを直列に並べた multi-epitope なワクチンがさまざまな抗原に対し開発されており、有効性を示している。
インフルエンザに関してもin silicoレベルでは多数のデザインが公開されており、マウスに対する感染実験にてインフルエンザ四価ワクチン(QIV)と比較して
優れた効果を示した研究もある。
インフルエンザに関してもmulti-epitopeなデザインは有効な抗原デザイン手法
であると考えられる。
本研究では、インフルエンザウイルスのうち、H5N1亜型の鳥インフルエンザウイルスに対する抗原設計を行った。
それにあたり、従来のmulti-epitope vaccine(MEV)の開発手法に加え、
新たなドッキングシミュレーション手法を試みた。
従来のドッキングシミュレーションでは、分子動力学(MD)シミュレーションが主流であったが、
MEV は設計過程上、天然変性領域(intrinsically disordered region:IDR)を多く含む可能性が高く、
入力するタンパク質構造を一意に定めるMDシミュレーションでは信頼性に疑問があった。
本研究ではその信頼性を補完するためにシード値を変更して複数回の構造予測と独立した熱力学的な解析を行うことで、
評価の信頼性を補完することを試みた。
構造学的な前提を必要としない、タンパク質言語モデルを用いたドッキング評価も合わせて行い、相補的に評価を行った。
===== 高用量インフルエンザワクチン
新城雄士(サノフィKK)、新薬と臨床 2024,vol.73,pp.841-854.
要旨のみ
高齢者は免疫機能が低下し、標準用量の防御効果が得にくい。
高用量ワクチン:不活性化スプリットワクチンで、hemagglutinin抗原が標準の4倍含まれる。
高齢者で標準ワクチンの有効性を50%とすると、高用量は62%
CDCでは高用量は65歳以上に承認されている。
ーーーー
https://ameblo.jp/drminori/entry-12929699469.html
最も心筋炎・心膜炎が生じやすい薬剤は? 関連が強い上位10剤を特定
という記事で、
<条件>
炎症性心疾患の治療に用いられる循環器系薬(β遮断薬、カルシウム拮抗薬、利尿薬など)、免疫抑制薬(TNFα阻害薬、IL阻害薬、カルシニューリン阻害薬)、全身性ステロイドなどは除外した。
ーーー結果
表2:心膜炎と関連が強い上位10剤
天然痘ワクチン、COVIDワクチン、メサラジン、、、、、
第6位ヘパリン、第8位インフルワクチン
心膜炎では、特にワクチン(天然痘ワクチン、インフルエンザワクチン、SARS-CoV-2ワクチン)で神経系障害の併発率が高かった。