最後にあとがきとおまけへのリンクがありますので、そちらもお楽しみいただければと思います(*・ω・*)

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒメツバキ

 

 

 

 

 

 

静岡の冬はわりと暖かい。らしい。
でも冬であることに変わりはないので、やっぱりそれなりに寒い。いや、けっこう寒い。
だって、この時代にはエアコンも石油ストーブも床暖房もないんだから。
寒さをしのぐものと言えば、もっぱら火鉢、あと炬燵。だから、手足がなかなか温まらない。
今は特に冷やしたらだめって、みんなに言われるんだけど、これ以上どうしたらいいのか。

 

 

「もっと重ね着すればいいのかな」

 

 

すでに、裏地のある袷の着物と厚い綿入れを重ね着している。足にはもちろん木綿の足袋。

 

 

「もう一枚着たら、風船ダルマになるな…」

 

 

ため息をついて、ぬるくなってしまったお茶をひと口飲んだ。
部屋の空気を入れ替えるために障子戸を少しだけ開けると、空はからりと晴れていて、乾いた冬の風が吹き抜ける。
庭の木々はほとんど葉を落としてしまっているけれど、冬に花を咲かせる垣根だけは、緑につつまれていた。

 

 

「あ、赤だったんだ…」

 

 

何色の花をつけるのか、実はこっそり楽しみにしていた、垣根の山茶花。
根拠のない、ただの願掛けのようなものだけど、なぜか本当にその通りになる気がしたから。
咲いた花が白だったら、男の子。赤だったら…

 

 

「きみは…女の子、なのかな?」

 

 

まだ、着物の上からだとあまり目立たないおなかのふくらみに手をあてて、話しかけてみる。
すると次の瞬間。

 

 

「……え…っ」

 

 

ぽこり。

 

 

「……いま、もしかして…」

 

 

……ぽこっ。

 

 

「あ……っ、秋斉さんっ!あきなりさーん!!」

 

 

私の大声に驚いた彼が、自分の部屋からすっ飛んできた。

 

 

「なっ、なんや!具合悪なったんか!?」
「ちがうちがう!ごめんなさい、大丈夫だから!」
「……そうか。ほな、どないしたんや。そんな大声出して」
「あの!ちょっとここ、触ってみてください!」

 

 

縁側で向かい合って座り、秋斉さんの大きな掌をおなかに当ててみる。

 

 

「…………あれ?」

 

 

けれど、待てども待てども反応は返って来ない。

 

 

「おかしいな…さっきは確かに、ぽこって」

 

 

手を離して、一度姿勢を正せば。

 

 

「あ、また」

 

 

存在を主張する、小さな小さなノック。ちゃんとここにいるよって、おしえてくれているようで、じわりと嬉しくなる。
だけどもう一度彼が手を置くと、内側からの返事はまたしてもぴたりと止んでしまう。

 

 

「な…なんで…?」

 

 

私が触ると動くのに、秋斉さんが触ったときだけ、だんまりを決め込むのはなんでだ。

 

 

「……ふむ。これは…やっぱり捻くれもんのようやな」

 

 

こんなに小さいうちから…!?

 

 

「奈穂はんに似れば、素直でまっすぐな子になったやろうに。どうやらわてに似てしもたようや。堪忍え」

 

 

苦笑する彼が、私の頭をふわりと撫でてその場を去ろうとする。
この子が秋斉さんに似るのは、私としては大歓迎だけど、返事がないのはきっと捻くれてるせいなんかじゃない。そう思いたかった。

 

 

「秋斉さん、待って…っ」

 

 

腕を引いて、もう一度彼に座ってもらうと、少し強引に私もその膝に収まる。
背中から抱きこまれるようにして、彼の手と私の手を重ね、もう一度おなかにあてた。

 

 

「こうすれば、きっと…」

 

 

…………ぽこ

 

 

「!」
「ね!いま蹴ったの、わかりました?」
「…へえ。たしかに…」
「そっか、三人一緒がよかったんだねえ、きみは」

 

 

ぽこぽこぽこっと、嬉しそうな返事がかえってきて、なぜか涙があふれそうになった。
私のおなかに宿ってくれたこの子は、私達が両親であることを、ちゃんと喜んでくれている。

 

 

「お転婆なお姫さんやね」
「えっ」

 

 

いま、姫って…言った!?

 

 

「まだ掌くらいの大きさやのに、こない元気に動いてはる」
「あの、それも確かにそうなんですけど、その前に、姫って…」
「…ん?ああ、なんとなくおなごな気がしましたんや。何の根拠もあらへん、ただの勘やけど」
「私も、あの垣根の山茶花が赤い花を咲かせたら、女の子なんじゃないかって、勝手に思ってました…」

 

 

秋斉さんは少し考えるように黙り込み、私の肩に顎をぽすんと預けた。

 

 

「…いや、もしかしたら、おなごやない男子や、と怒ってはるのかもしれへんな」
「あはは、勝手に決め付けるな!って?」
「そうや。生まれるまではわからへん」

 

 

彼が、私をその腕にすっぽりと抱きしめる。

 

 

「男の子でも女の子でも、どっちでもいいです。元気にうまれてきてくれるなら」

 

 

大好きな香りと体温に包まれて、幸福のままに目を閉じた。
私の身の内に芽吹いた小さな命が、健やかに育ってくれることを願いながら。

 

 

 

 

 

おわり

 

 

 

 

 

 

 

おまけはこちら→R18閲覧注意

 

以下あとがきのようなものを少し。

尾張ギャラリーに出展したファイル入れたあとがきのコピペです(-"-;A

 

 

 

 

◆主人公の名前について
「奈穂」は、私が艶が本編で使っている主人公の名前です。艶がだけでなく、いろんなゲームの主人公にことごとくこの名前をつけております。今回の話を書くにあたっていつものように主人公の名前を考えたのですが、これというものがまったく浮かばず、なら「奈穂」にしてしまえと、勢いでつけました。個人的に、どうしても○○だと書けなくて…。ご了承くださいませ。

「Cordon Rouge」の主人公「葵」は、加筆修正前の話を書いたときにつけた名前で、今回そのまま使用いたしました。あしからず。

 

◆「葡萄酒の効能」について
このお話はもともと、艶がーる五周年の記念に何か残したいなと思って書き始めたものでした。本編結エンドで、秋斉さんが主人公ちゃんにプロポーズしましたが、その後祝言を済ませたあとのお話です。
書いているうちに秋斉さんの話のはずが慶喜さんの話になり、そして主人公ちゃんがちょっとおバカなキャラになり(秋斉さんをアラフォー扱いするし)、最後は結局押し倒されて終わるといういつものパターンになっております。もっとみじかい短編になるはずが、悪い癖でどんどん長くなってしまい、その上ここから派生した別の話を書きたくなり、それが「花の燈火」につながりました。もうしっちゃかめっちゃか。

 

文中で秋斉さんが語っている慶喜さん泥酔事件は史実です。中川宮邸で汁椀に注いだ酒をあおって酔った振りをした慶喜公が、同席していた島津久光・松平春嶽・伊達宗城を罵倒。中川宮に「島津からいくらもらっているんだ」と暴言を吐いた事件。俊太郎さまルートでも高杉さんがそのことに触れていました。ちなみに牧之原に茶園を拓こうとしていたのも本当だそうな。静岡にお茶を広めたのは慶喜さんだったのかな。

 

そして秋斉ルート結エンドといえば、あの大喧嘩。そしてその前の宴会。お酒で酔わせて現代に帰そうとしたことを、主人公ちゃんは許しはしてもどこかで引きずっている気がする。お酒を飲まないのはその名残でしょう。

 

文之丞が持ってきた甜瓜。むかし祖母が畑で作っていて、夏によく食べさせてもらいました。甘さ控えめなメロン…というより、ほんのり甘いきゅうりに近かったかも。

 

◆「花の燈火」について
なんとなくこの時代の祝言に近づけようと頑張ってみましたが、そこはかとなく漂う偽物感…。幕末や明治の話を書いていると、実際にタイムスリップしてこの目で確かめたいと毎度思います。帰ってこられなくなるのは困るけど。

 

冒頭に登場した目貫の帯留め。「葡萄酒の効能」にもちらっと登場させました。秋斉さんの目貫が龍だったらかっこいいなと思っただけで、特に由来はありません。
初夜は、すでにいろんな作家さんが書かれているので、既視感たっぷりだったかと思います。秋斉さん目線は真面目に、主人公目線は少しコメディぽく。対比をつけてはみたものの、結局ふたりがひたすらいちゃいちゃしている話に変わりはなく。反省。
それにしても、初めての夜に二回戦はちょっと辛いと思うぞ秋斉さん(下世話)。

 

◆「ヒメツバキ」について
ヒメツバキとは、山茶花(さざんか)の別名です。姫椿と書きます。この名称が女の子ぽくて、しかも女子なら一応徳川家の姫だし、ということで、おなかの子は女の子疑惑な話にしたのですが。
秋斉さんの子だからね、絶対そんなにわかりやすくないよね…。それを喜んでる主人公ちゃんもなかなかM気質だよね。
父親がおなかを触るとぴたっとおさまる胎動あるあるでした。もうこの家族は、めいっぱい幸せになるといいよ!

 

◆「Cordon Rouge」について
秋斉さんと主人公ちゃんがひたすら致してるだけの話です。キッチンプレイ万歳。
変態斉で本当に申し訳ありません。藍屋の姐さんたちに刺されても文句は言えねえ。
 

◆全編を通して
表題の「花紺青」とは元々、ほんのり紫色を帯びた紺色のことです。それを私が勝手に、紺青に咲いた花、と意味を捻じ曲げて使わせていただきました。
表紙の紺地に咲いた赤い椿の花は、秋斉さんの傍で花開いた主人公ちゃんを表していたりします。
表紙の赤い椿、「葡萄酒の効能」の赤ワイン、「花の燈火」の赤い小袖、「ヒメツバキ」の赤い山茶花、そして「Cordon Rouge」の赤いリボン。
今回ファイルに詰め込んだお話すべてに、こっそり「赤」を隠してみました。わかった方おりますでしょうか(;^_^A

 

 

2016年の尾張ギャラリー出展作品は、これにておしまいです。

来年も開催されるとのことですので、次回の成功を祈りつつ、結びとさせていただきますね。

気まぐれに書きたくなったらまた書き物再開したいと思います。

 

 

ではではみなさま、また会う日までちゃこ バイバイ