今日、みい坊は朝から部活へ行き、夫は仕事へ行った。

私は布団を干したりシーツを洗ったりしたのち、買い物に出かけた。

少し歩いただけでヘナヘナと力尽き、

いきなりコーヒー屋で休憩をとった。

そのコーヒー屋で、

私のまわりを蚊がヒョロヒョロと飛んでいてなかなかあっちへ行かず不快だった。


それでふと思い出したことがある。


高校時代の出来事の、

愉快な思い出ランキングのトップ3に入るであろう、

私のお気に入りのエピソードである。



高校3年生の初夏、

当時の担任の授業中、1匹の大きな蚊が教室内を飛んでいた。

教室はエアコンが効いていて、

窓や扉は閉まっていた。


担任は、

おいおいデカい蚊がいるぞ
誰か殺してくれよ

と言った。

そして授業を中断して、

クラス全員一丸となってその蚊を仕留めようと試みた。


授業中は死んだような顔をしていたあの子もこの子もみんな途端に目を輝かせ、


どこ行った?
いた!
パチン
だめだ逃げられた
今度はそっちだ
どこ!?
そこだよ!
パチン
逃した!


などと言って、

夢中で蚊の行方を追い、異様に盛り上がった。


5分か10分粘ったが、

蚊は急に視界から消えて誰も仕留められず、

担任はしぶしぶ授業を再開した。


再開してからどれくらい経ったか忘れたが、

蚊がいたことなどなかったかのようにみんな静かに集中して授業を受けていた、

その時だった。


私の斜め前の席に座る男子生徒の机に、

蚊がふわっと舞い降りたのだ。


あ・・


と私が思ったと同時くらいにその男子生徒も蚊の存在に気付いた様子だった。


どうするのかなと思って見ていたら、

彼は全く動じることなく、

その時手にしていたシャープペンの、

芯の反対側の部分で、

静かに蚊を潰したのだ。


そして何事もなかったように蚊の亡骸を床へ落とし、

そのまま授業を受けていた。


一部始終を目撃した私も、

内心、

えーっ!!

と思ったが全く態度には出さず、

こりゃすごいものを見たぞと静かに興奮していた。

近くの席をそれとなく見回してみたが、

みんな下を向いていて私以外見ていた者はいないようだった。


授業が終わり、担任が教室を出る時、

そういえばさっきの蚊はどこ行ったんだろうな

と言った。

クラスのみんなも、

ほんとどこ行ったんだろう

などと口々に言い、

蚊の行方を知っていると名乗り出る者はいなかった。


私は、

人知れず蚊を一撃で葬った彼が何か言うかなと注視していたのだが、

彼は誰にも何も言わなかった。

そうきたか、と思い、

私も黙っていた。


わざわざ授業を中断してまで、

あれだけ大騒ぎして蚊を追いかけ回した時間があり、

彼はその蚊を仕留めたヒーローなのに、

その蚊の最期を誰にも言わずにいることがおかしくてたまらなかった。


彼は涼しい顔をしていたが、自分だけが知っていると密かにほくそ笑んでいたのかも知れない。


が、

フフ・・

私は全てを知っている。


そのことが実に愉快で仕方がない。



そんなことを思い出しながらコーヒーを飲んだ後、

買い物を済ませて家に帰る途中に、

部活帰りのみい坊を発見したので盗撮をし、




その後まんまと気付かれたので一緒に家に帰った。