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冴えない天気が続いていた。

Melindaが、「先週と色が全然違う!」と興奮して言うほど、紅葉のタイミングはばっちりだったが、背景は、どんよりと灰色のまま、姿を変えようとしなかった。ともすると「空は青いんだ」という事実すら忘れてしまいそうなほど、分厚い灰色の雲が、毎日毎日、赤い絨毯の上を覆っていた。


唯一の救いは、メンバーの明るさだった。天気なんて関係なく、アラスカにいる幸せを十分に噛みしめているメンバーたちは、雨でも、マッキンレーがちょこっとしか姿を現さなくても、がっかりしない。少なくとも、表面上は、誰も落胆したそぶりを見せず、逆に「アラスカは素晴らしいねー!」と笑顔とハイテンションでいてくれたから、私自身が救われていたようなものだ。天気とは裏腹に、そのギューっと幸せな空気を運んで、車は、次の地へと私たちを運んでいく。



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Melindaと二人、顔を合わせるたびに「どうか、この素敵な人達のために、晴れたアラスカを見せてあげてください」と祈って祈って祈って・・・5日目、ランゲル国立公園での朝、待っていたこの日がやってきたー!


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昨晩は、星のひとつも見えなかったのに。
この朝は太陽のまぶしさで目が覚める。慌てて、同室のサトコを起こした。「晴れたね・・・とうとう。青空だね、とうとう。やったね・・・」。寝ぼけたまま、ふたりで目を合わせ、手を取り合い、にんまりとほくそ笑む。

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この数日間の雨で、空気中のホコリをすべて洗い流してくれたせいなのかどうか、ただの青空じゃない。台風一過の後のような、クリアーな青空と雪山と木々。完璧だ。今まで見た中でも最高の景色じゃないか。

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遊覧飛行のパイロットが、「今年一番の遊覧日和」と自信満々に言うほどに、この日の遊覧飛行はすごかった。3度目の体験である私すら、飛行中の90分、瞬きすることも、息することも忘れて、窓の外の景色に見入っていた。

その後のハイキングも、ピクニックサンドイッチも、みんなで撮った集合写真も、夜ゴハンも、満天の星も、さらにはようやく現れたオーロラも、この日1日、一瞬一秒が、卒倒しそうなくらいに幸せな気分で満ちあふれ、目に見える景色は輝いていた。全員の笑顔が嬉しかった。


ああ、私、この1日を味わうために、遠く遠くアラスカまでやってきて、4日間、雨と曇の天候を受け入れていたんだ、って、思え、ずっとずっと幸せを噛みしめていた。


***

もし、この日にくるまでの4日間が晴れていたら、ここまでこの日が特別になることはなかっただろう。アウトドアは、自然の景色は、確かに天候によって左右される。天気は関係なく自然はすばらしいよ、と言われても、テントを叩く雨音で目が覚める朝は、やっぱり憂鬱だ。

でも、今回のメンバーは、天候なんかに左右されない強さをもっている人達だった。「雨音で目覚める朝も悪くない。それに、雨の後の晴れ間は、よりいっそう素晴らしい」っていう心の持ち方を、何も言わず、笑顔だけで、私に教えてくれた。

ありがとう。


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・・・翌日は、朝から、また寒々しい雨雲に覆われていた。ほんとうに、神様がくれた、ご褒美の1日だったんだな、あの日は。


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