小野不由美「残穢」


 ホラー小説、ファンタジー小説をメインとする作家さんのドキュメンタリーホラー小説です。ずっと見える場所に積んでいた本ですが、読み終わると身近に置き難い本になりました。小説なのですが、登場人物や地名を含めて「実話感」が強くリアルなのが原因です。

 最近流行っている、「モキュメンタリーホラー」とは違う、「ルポホラー」な感じですね。ホラー小説なのですが、怖い話を作っていないので、モキュメンタリーの様な不自然さはありません。(モキュメンタリーはホラーエンタメとして面白く好きです。)

 ある事象を追ううちに、「実はもの凄く怖いことだった。」とあとから分かりゾッとする系です。

小野不由美作品のホラー小説は、美しい感じが多いですが、コレは実話感があり徐々に怖いので、本当に怖いのが好きな人におすすめです。



 主人公は、名前は出てきませんが、作者(小野不由美)本人です。かつての作品へのファンレターに「気になる話」があり、投稿者と連絡を取り合います。その話とは、マンションの誰も居ない和室で掃き掃除をしている様な異音がするというものでした。事故物件かと調べても、そんなことは無いとのことでした。しかし、その部屋は住人が頻繁に代わる問題物件で・・・。


 実際の霊的なモノは出てきません。ですが、実在のホラー作家さんや怪談蒐集家が登場して実話感を増してきます。主人公は、物件の捜査だけでなく土地の来歴まで調べて、寺や廃工場のかつて従業員、かつての住宅の住人と話を聞いていきます。「コレ」っていう確証が無いまま話が進むのもリアルです。色々な人の「穢れ」が吹き溜まる、まさに「残穢」な本でした。


 スッキリとクライマックスが分かるホラーエンタメ作品ではないので、表紙の雰囲気に期待しては読まない方がいいです。ただ、作ったホラーより余程怖く読めます。夏におすすめの本です。

 「探究」という点では、高校生や大学生におすすめします。