寝ても醒めても ~ Nuit et Jour ~-mon.jpg



















その前を行きずり歩くごとに
遥香の胸は苦しくなった
整列する模範生の中に紛れ込んだ異端児
正装の中にある異装
閉じられた門

曲線の美、アールヌーボー
前の前の世紀末に咲いた遺産
いいえ、残された骸(むくろ)

形あるのは蜘蛛の巣にからめられた昆虫であり
蜥蜴(とかげ)と守宮(やもり)
猿の顔に狸の胴をもち手足は虎で尾は蛇
ヒョウヒョウと鶫(つぐみ)の声で啼く鵺(ぬえ)
奇怪な有機物たち

ファサードは禁断の天国への扉
鉄のノブに手をかければ
冷たさ故か子宮が響く
遥香の部分がどんどん潤ってくる
舐めたら気持ちよさそう

あぁ、、、
中に入りたい
どんなに心地いいことだろう
門は柘榴色に生きていて
女を適度に隙間なく締め付けるに違いない
それは、まるで、、、

扉の向こうから遥香の顔を透視すれば
瞳孔は爛爛と、頬は上気し、息づかいは荒く、、、

どのくらいの時間を佇んでいたのだろうか
—— マドモワゼル、どうされましたか?

肩をたたかれて振り返ると
黒尽くめの上品な紳士が憂うげに立っている

「ええ、ちょっと気分が。。。」
恍惚を見られてしまった気恥ずかしさ
頬染めてうつむく
(このまま達してしまおうと思っていたのに!)

—— それはいけませんね、よかったら少し休んでいきませんか?
(中にはいれるわ!)
媚びる上目遣いで頷いた
「お優しいのね、少し休めば大丈夫と思います」

暗証コードが押され扉が開く
ギギーーッ
仄かな光の中で導かれる部屋
いや、そこは部屋ではない
イコンの黄金の輝き
淡い光の聖堂
衣擦れの音
歪(いびつ)な十字架

—— びっくりしましたか? ここは教会なのです
見れば、紳士は神父服を着て
香炉からエクトプラズムのような白煙がゆれる

煙が躯にまとってきた瞬間
遥香はすべてが了解できた
司祭と交わる!
冒涜であればこその快楽を
女は望むのだ

躯をわざとよろけさせて
後ろから抱かれる体勢となる
腰に感じる熱いものに必然と尻をつきだす
スカートがまくられ
ショーツが強引に下ろされ
臀部が左右に引き裂かれ
身体を後ろから熱いものが突き抜けた
一瞬のことである

—— こうして欲しかったんだろ、すっかり濡れてまったく吸い付くようだ
—— はじめに目をみたときから何を欲しがっているかわかったぜ。

祭壇の影で密やかにではない
行為は激しい
攻めに思いあまって男の動きを抑えようとすれば
男はさらに激情してつけあがってくる

やまことなく襲う快感の波濤
でも遥香の躯は知っているのだ
欲情した対象はこの男ではない
あの門にこそ、と。。。
そう
規則正しく突き上げてくるものの実体は
女そのもの

体位をかえて男は遥香を抱いてまた貫いた
乳首も露になった
すべての欲望を尽くそうと
男は執拗に舐める

たまらなくなり男のモノを貪る
まざる汗とスメグマのにおい
めくるめく快楽の渦の中に遥香は失神する



女は奇怪な扉の前のベンチにすわっている
人の気配はない
門の周囲だけ濡れている
興奮の滴りがほとばしりでたように。。。

かけよってノブに触れた
かすかなしびれが奔って
遥香の女の部分から生あたたかい液体が流れた
纏つく香からは牝にからむ牡臭が零れていった

後日遥香は
かの時代のシュールレアリストがその門を絶賛し
『欲情の入口』と名付けたことを知った