ホスト業界ではここ数年、
「年間1億円突破!」
「総売上1億2千万円・○○店売上記録保持者」
などと、
「1億円」というワードがトレンドとなっているが、
僕の知りえる限りだと、
その中の6~8割のホストは、
「空売り」と言って、
売上記録には一応なりはするものの、
実際に現金は半分ほどしか入金されておらず、
売ったものの、自身の懐には特に大金が入ってきているわけではなく、
一時の称賛や、宣伝には値するんだけど、
周りのホストから見たら
「それって有りっすか?」的な視線も少なくない。
まっ、正直なところそれでもスゴい事はスゴいし、
その空売り後の称賛されている期間に、
すんげーオーラ的なのを放って、
次なる優良なお客様をゲット出来ればいいんだけどね。
それが出来なければ、
ずっと背伸びしながらしばらくは歩いていかないとだし、
結局しんどいから、
やっぱり残りの2~4割のホストにならなくちゃね。
って切実に思う。
最初にはっきりと言っておくが、
今から記す事は一切話を盛ってもいないし、
すべて真実の物語。
彼はまだホスト業界にいるので名前は『S』としておこう。
当時、Sは22歳半ば。
誕生日を込みでちょうど一年で1億円を売り上げた。
しかも恐ろしい事に
フルキャッシュで売上げたので、幸運な事この上ない。
果たしてこれは『幸運』なのか『実力』なのか?
はっきり言おう。
ホスト業界で起きる事はいかなる事も全て『実力』である。
『運が良かった』とよく僻みで言われる事も、
実際どうみても『運』にしか見えない事もやはり『実力』なのである。
『運も実力のうち』という言葉、僕は好きだ。
実力は『運』を引き寄せ、
人を引き寄せ、まわりの人を巻き込み、
そして応援させる。
『運』は言い換える事が出来るなら、
時の『人徳』であり、継続してきた努力の賜物なのである。
さて、Sはどんなホストだったのか・・。
その前にSとお客様との出会い、
そして1億円を使いきるまでの軌跡を辿ろう。
出会いは某大都市某店。
彼女はその大都市郊外に住む当時、24歳頃だっただろうか。
最初は友人に連れられてきた、
いわゆる『枝』のお客様。(以下L)
たちまち王子キャラのSに惚れ込み指名したのがこの物語のプロローグである。
それからのLは頻繁に店に足を運ぶわけではない。
年に2~3度ほどLは足を運び、
毎回40~50万ほどを使い帰っていくかなりの上客。
そうして約3年の月日が経った頃に
Sが某大都市に異動する事になった。
新たに異動した店はNEWOPENでSも張りきって頑張った。
その頃から何かがパチンと音を立てて彼女は壊れ始めたのかもしれない。
梅雨の始まる初夏の頃だったと今も鮮明に記憶している。
ある日Lはいつもように来店し、やたらとシャンパンをオーダーする。
はっきりとは覚えていないがおそらくチェックは軽く100万は超えていた。
その日で味を占めたかのようにLは、
来店の頻度も月に2度から週に1度、
更には週に2度ほどまでになり、
毎回、高価なシャンパンを、
小さなコーラの瓶のように皆で飲み干していった。
気付くと毎月に使う金額は、
彼女一人で500~700万円までになり、
真近で見ている僕の金銭感覚まで麻痺してしまうほどにまでなっていた。
『このシャンパン一人でイッキした子にはこれあげるーー』
なんて言っては手に5万円から10万円をウチワのように持ち、
アルコールで少し頬を赤くしたLは、
一人バブル時代を謳歌していたのである。。
人間とは不思議なもので、
ある幸福な環境を確保してしまうと
それが永遠に続いていくものだと、
強く錯覚してしまう生き物である事に気づいたのもその頃で、
特に僕自身に直接の利益があったわけでもないのに、
僕も『この状態は永遠に続くのだろう』
という間違えた感情と、「いつ終焉が来るのだろう?」
という冷静と興奮の間で彷徨っていたのをよく覚えている。
いつしか街中がクリスマス仕様になり、
冬支度を始める頃、Lはホスト遊びとして最大のピークを迎える事になる。
Sが誕生日だったので、
Lは鼻息荒く僕達と何をおろすだとか、
どんな服装で来るだとか、花はどうするとか、
色々な準備を万全に整え、当日を迎えた。
当日Lは現金で2000万円を持参し、
さすがにセキュリティ面で怖いので僕の自宅の金庫で預かり
僕は従業員達と足早に出勤した。
店には1本150万円の高級ブランデーが10本以上ズラリと並べられ、
(↑某サイトに今でも動画が一部始終掲載されている↑)
営業も中盤にさしかかった時に、
それらをあらかじめ組まれていたタワーに注ぐ儀式が行われ、
更には、ドンペリロゼなどのシャンパンなども、
いつものようにサラリと開けまくり、
トータルの会計が2000万円前後に帳尻が合うようにして、
派手な宴は幕を下ろした。
この日のSは本人の揺るぎなき自信と、
確固たる結果が、本物の王子のような風格にさせ、
見る者を魅了したし、
Sにとっても人生最良の日であった事は言うまでもないだろう。
前述したように、
この月が全てのピークを迎え、いよいよバブルははじけてしまう。
かつての90年代前半の日本もそうであったように、
誰もがいつまでも続くかのように
思わせる魔力がお金(現金)にはあるのだろう。
それから月を追う事に、
来店の頻度が少なくなり、
来店してもさほどお金を使わず、
あからさまに終焉を迎えた事を告げられた気がしたものである。
かつて放っていた金回りがいい人間特有でもある、
彼女のオーラは完全に消え失せ、
言い方は悪いが、
ただ田舎から頑張って出てきて、
無理して飲んでいるオンナに変わり果ててしまった。
我々からすると、「お客様」とはいえ、
本当に良くしてもらったし、
僕自身は死ぬほどヘルプについたし、
五大シャトーの超いい赤ワインをSとLと僕の三人で美味しく頂いたり、
酒屋から表彰されるほどの本数のピンドンを飲ませて貰ったり。
華やかでゴージャスな思いでは数えきれない。
そして冬の終わりも迎える頃、
店には彼女の影もなく、店全体にもそれが影響して、
売上を含む彼女の存在の大きさを思い知らされながら
我が店と彼女のバブルは音を立ててはじけたのだ。
~この話続きます~
蒼樹 圭
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