東京に憧れを抱いたのは、たぶん小学校高学年の頃だったと思う。


大好きな芸能人がたくさんいる街。アイドルになりたかった私の憧れの場所になるのは必然だった。


6年生の時、家族でディズニーランドへ行った帰り、1日だけ東京観光をした。


私の希望で渋谷に行った。渋谷のロフトで買った水色の筆箱は私の宝物になった。


今から思えば、どこにでもあるような、ありふれた平凡な筆箱だったけど、私にとっては「渋谷で買った筆箱」というプレミアがついていたので、とても輝いて見えたし、自慢だった。



それから大人になっても、漠然とした憧れを抱き続けていたので、就職活動の広告関係をメインに行った。


でも…それはうまくいかなかった。


だけど、大人になったので、仕事をしてお金が貰えたので、何かにつけて東京に遊びに行くことは可能になった。


東京は楽しくて、何もかも輝いて見えた。



結婚し、夫の仕事の都合で東京に住む事になった。


東京が少し現実なものになった。


東京は物価が高い。夫の給料だけではなかなかアクセスの良い場所に住むのは難しいと考えたので、私も東京に骨を埋めるつもりで就職活動を再び行った。


今度はうまくいった。タイミングが合っていたのだと思う。



東京での家は23区にこだわった。



その方が東京に住んでるっぽいからっていう単純な理由で。





23区に住んでる事が自慢だった。


歩いて井の頭公園や吉祥寺に行ける事もとても自慢だったし、家から吉祥寺までの道のりが大好きだった。



東京での生活は、大変な事も多かったけど、今から客観的な目で見たら、それはもう悲惨な状態だったように思うけど、それでも私は楽しかった。



この場所が大好きで、それがいつまでも続くものと思っていた。



でも、当然夫が地元に帰ると言いだした。


私は大反対した。何とか東京に残って欲しかった。でも地元での仕事がどうしてもやりたいとの事で、地元に戻ってしまった。


その時、私は妊娠5ヶ月だった。



私は意地になって、産休ギリギリまで東京で働いた。夫が地元に帰ってからは一人暮らしだったけど、東京に残っていた。



一人暮らしでも、東京での友達もいたし、地元からも遊びに来てくれていたので、楽しかった。
東京に住んでいる事が、東京で働いている事が、自慢だった。



育休が明けたら、本気で東京で一人で育てながら働くつもりだった。



でも、結局それはリスクがあり過ぎると、泣く泣く地元に戻ってきた。


東京最後の夜は超高級ホテルのレストランでディナーを食べた。


それくらいしてやらないと気が済まなかった。


地元に戻ってきてから、私は仕事がなかったので、産後一ヶ月から就職活動を始めて産後3ヶ月から働き出した。


本当だったら育休が取れていたのに!という不満というか、呪縛のようなものに取り憑かれていたように思う。

東京に戻る夢を毎日のように見ていた。本当に戻りたかったけど、戻れずに地元で働きながら子育てをするしかなかった。


でもその結果、地元で就職するには1番理想的な就職先が決まった。


夫の仕事も軌道に乗ってきて、私の実家の近くの、大きな公園が近くにある場所にマイホームを建てた。


二人目も無事に産まれた。


毎日うるさい子供たちに囲まれていたある日、仕事関係で東京に行くチャンスが出来て、私は仕事を早く終わらせて、住んでいた家から吉祥寺までの道のりを歩いてみた。


駅に着いた時から、涙が止まらなかった。



懐かしい気持ち
悔しい気持ち
嬉しい気持ち
悲しい気持ち


いろんな感情が入り混じって、うまく言葉に出来なかった。



楽しい東京
輝いている東京

どうしても期待場所で戻りたい場所のはずだった。


なのに、そんなに楽しくなかったし、そんなに輝いてはいなかった。


思い出される思いでも、夫との素朴でささやかな出来事ばかり。


それが本当に幸せな時間だった。


そして、私にとって今、もっとも大切でかけがえのないものは、東京ではなく地元であり、家族だった。


不条理な引き離され方をしたので、東京に固執してしまっていたのたと思う。


東京にいれないけど、不幸じゃない!幸せでないといけない!と必死になって幸せアピールをしていた。


仕事自慢子供自慢夫自慢、持ち物自慢等々。



でも、気がついてしまった。



私は地元で幸せになってしまった。


今住んでいる場所に愛着があり、今の環境がとてもかけがえの無いものたと、東京に再び来る事で気がつく事が出来た。


私は確かに東京で「何か」を失った。それを失ったままだと思い込み、必死で埋めようとしていたけど、いつの間にか、失った「何か」より大切なものを手に入れてしまっていたのだ。



心がときほぐされていくのかわかった。

それはホッとしたような
嬉しいような
寂しいような
悲しいような
そして、誇らしいような


いろんな気持ちがごった返して、やっぱりうまく言葉に出来ない。


ただ、長年連れ添った憑き物が取れたようなそんな気持ちになったのだ。



ありがとう東京。
さようなら東京。
これからは、今の場所で輝ける。