給料が期待できないメーカー勤務にとって、


休みが多いことがだけが唯一の救いだった。


7月の終わりから9連休の夏休み、


それとは別にお盆休み。



その夏休み。


最初の2日間は友達と温泉に来ていた。


関東では有名な避暑地で、


女子4人で温泉に入り、美味しいものを食べ、


アスレチックやバギーなどのアウトドアレジャーを楽しんだ。



後半は、付き合っていた彼(春樹)と北海道旅行。


実は、彼と付き合ってから夏には必ず北海道に行く。


北の涼しさと広大さ、生もの大好きな私にとって


夏の北海道は天国だった。



2泊3日で函館と札幌を回る。


1日目、函館の海の近くの回転寿司屋へ。


回転寿司だからといって侮れない。


北海道の回転寿司は、


下手な東京の回らない寿司屋の倍はいけるのだ。


(ちなみに北海道の人はあまり寿司を食べないらしい。
 生ものが新鮮で美味しいから、わざわざお寿司にしないみたい。贅沢!)



「さぁ、夜食がいらないくらいいっぱい食べよう!!」


目の前に流れてくる新鮮なネタのお寿司に目をやった。


「何からいく?」


「とりあえず・・・」


『まぐろ』と言おうとしたが、


何故か食べたいと思わなかった。


「納豆巻き」


「え?!いきなり?笑」


なんでだろう、まぐろが美味しそうに見えない・・


「サーモンは?かなり美味しいよ」


「・・・たまご」


「え!?めずらしいな・・」


サーモンもダメだ。


イカも、タコも、いくらもウニも。。。


絶対に美味しいはずなのに。


彼は


「この値段でこの美味しさ!やっぱり北海道はいいな!」


と満面の笑みで食べ続けている。


実際、相当美味しかったに違いない。


「カニ!北海道の一番美味しいやつ!」


手をのばし、一口くちをつけるが


「もう、いい・・」


おかしい。


生ものが食べられない。


食べられないというより、カラダが受け付けない。


どうして?


「葵、どうした?体調でも悪いのか?」


「う、うん、、そういえばちょっと、気持ち悪い・・感じがする・・」



その夜、函館山に夜景を見に行く予定がなくなった。


私の体調が本格的に悪くなり、


それどころではなくなったからだ。


あんなに楽しみにしてたのに、


出歩きたくない、寝ていたい。



「残念だけどしょうがないな。また来年来ればいいよ」


彼の口調はとても優しかった。


申し訳なかったけれど、どうしようもなかった。



原因がさっぱりわからないまま、


北海道旅行1日目が終わった。


今日もいつもように渋谷で神谷さんを待つ。


「おまたせ」


息を切らせてるところを見ると、


きっと急いで走ってきてくれたんだな・・


そんなことで心ははずむ。



「何食べたい?」


「うーん・・」


「パスタ?」


「うん!ピエトロ行きたい!!」


「了解(笑」



パスタが食べたい、これも知っていてくれる。


神谷さんからすれば、私への配慮は抜かりなかった。



私は神谷さんのことを本当に好きになりかけていた。


こういう関係になった当初は、


胸の苦しみはまったく感じなかった。


だけど、こうやって過ごす今、


神谷さんの笑顔を見て締め付けられる思いが


もうとても隠し切れないほどになっていた。



フォークにパスタを絡ませながら、


甘えるような目をした神谷さんが口を開く。



「今日・・・持って来た?」


「・・持って来たよ」


「よかった!!」


「・・・まさか神谷さんに制服属性があったなんて。」


「いや、そうじゃなくてだな、」


「奥さんにも、着てもらったりしてるの?」


「・・・それはない。葵だからだよ」



こんな風に可愛くないことを言うのも、


全部神谷さんを「恋愛対象」として見てしまっているからで、


本当にカワイクナイ私は、この時期、


事あるごとに彼を悩ませていた。



私が高校時代の制服を持ってきた経緯はこうだ。


先週、例のごとくホテルで一夜を過ごしている時、


以前から訴えていた「昔の葵を見てみたい」に答え、


中学~大学の写真を見せた。



「制服、かわいいな・・」とつぶやいた神谷さんに


「・・・制服、持ってこようか?」言ったのは、


単純に「見てみたい」という神谷さんの願いを


ただただ、叶えてあげたかったから。



1時間程で食事を終え、そのままホテルに向かう。


いくら会社から遠いとはいえ、渋谷。


どこで会社の人間と会ってしまうかわからない。


そうなるとやはりホテルしかないのだろう。


その時はそう言われて納得していた。


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ホテルに着くと神谷さんが早速着替えるよう要請してきた。



ベッドに彼を残し、洗面所のドアに鍵を閉める。


久しぶりの制服のブラウスに腕を通し、


当時ミニ丈に切ったスカートに足を入れる。


当然、ルーズソックスも持って来た。


それらしくするために、わざわざポニーテールにした。


ゆっくりと洗面所のドアを開けると、


スーツを脱いだ神谷さんが満面の笑みで、手招きをする。



いつもの通り、その腕の中に、


吸い込まれるように入っていく。



彼の望むように。


私だけが、彼の願いを叶えてあげられる、と信じて。









先週UPすると宣言したのにできませんでした・・

もし、楽しみにしてくれいた方がいらっしゃたらごめんなさいしょぼんあせる

今回のお話は、「神谷さん」と一夜を共にしてしまい、

後日不倫契約を結んだ後からのお話です。


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神谷さんは、私が想像していたより倍はマメな人だった。


「今から会議行ってくる」とか


「これから外出」とか、


他愛のないこともいちいち報告するのだ。


「出張に行ってきた」際は必ずお土産を買ってきてくれたし、


同じ場所に行っても、同じものは買ってこない、


という徹底した気の回しようだ。(さすが営業!)



昨日は広島に出張だったそうで、


もみじまんじゅうを買ってきたから、


社員はほとんどこないという


10階の非常階段に来るよう指示されている。




周りをよく確認してから


コッソリと非常階段へ出る。



・・・神谷さんは、、いない。


彼は本当に忙しい人だから、待つのはいつも私。


10分程して諦めて戻ろうとすると、


重たい扉が開いて、申し訳なさそうな顔が覗いた。



「・・待った?」


「うん、待った。」


「ゴメン!課長に捕まってさぁ・・」


「自分から指定してきてー。もーお土産とかイラナイよ」


「ウソぉ!?葵~ごめんってぇ~・・悪かった!」


「・・・」


「えーっと、葵ちゃん、今日も可愛いね♪」


「ナニソレッ」



出会って1ヶ月、


もう私たちは、冗談を言い合う仲になっていた。


会社が終わると、彼との連絡は徐々に途絶え始める。


彼が家路につくまでが、


わたしと彼が恋人でいられる時間なのだ。



・・・正確に言うと、愛人でいられる時間なのだが。



神谷さんは、私に気を遣って、結婚していることを


遠まわしに触れないようにしているわけでもないし、


家庭のことも、聞けば素直に答えてくれた。


「そんなこと、聞いてどうする」とか


「聞いてもお前が悩むだけなら言わない」とか、


そういった考えはどうやら持ち合わせてはいないようで、


聞けば返答が返ってきたり、


何でも話してくれるところが


逆に良い印象を持った。


私には何でも話してくれている、という


独占欲にも似た満足感で、


「不倫している」というよりも


「年上の彼と付き合っている(ちょっとワケあり)」


程度にしか思えなかった。



この頃、私たちは、週に2回は会っていた。


彼の住む横浜、私の住む埼玉の間を取って、


いつも場所は「渋谷」。


2回会ううちの1回は、


必ずホテルに泊まってそのまま会社に出勤する。


そして、金曜が終わると無言の土日が過ぎる。


また月曜日になり、いつ会えるか確認し合う。



危険なことをしている実感はまったくと言っていいほどなかった。


神谷さんは、ヘマをするタイプではないし、


平日は会うとしても会社から離れた渋谷、


私も土日は本命の彼と会っていて


神谷さんのことを気にする時間もなかったから


お互いの利害は一致した上で、危険性もなかったのだ。



何の危機も、


罪悪感も、


不倫関係では必ず付きまとうという


「不安」「苦悩」「嫉妬」でさえ感じずに、


ただ「好き」という気持ちだけで


全てが丁度良く周ってしまっていた。